医者へ行って、薬を飲み始めたという安心感からか、この日のオットは朝から犬の散歩へ行き、買い物をして帰ってきた。

ワタシが2階で仕事をしていると、台所からいいにおいがしてくる
ん?何か作っているのかな・・・・・
そう思って下へ降りれば、すじ肉をコトコト煮ている。どうもこれでカレーを炊くらしい。
普段の夕食はワタシが作ってオットが後片付け。そして昼食はオットが作るというルールがなんとなく決まっている我が家。
オットも昔、居酒屋で一年間働いていたので、料理はけっこうできるのだ。


この日はご飯も炊いてくれ、遅めにカレーの用意をする、オット。母も外出から帰って食事がまだだったので、一緒に昼食を食べた。母は3日前に爆発したことがまだ生々しい記憶として残っているようで、3人で食事をしている間もなんだか居心地が悪そうだった。だから早々に済ませ、「おいしかったわ、ごちそうさま」と、自分の部屋へ戻っていった。


ところで我が家には、ときどきお客さんが来る。
オットの商売は対面販売じゃないのだが、たまに直接買いに来る人がいるのだ。電話やメールで連絡をもらい、予約してもらった日にだけ応対する。
この日も来客の予定があったが、オットはとても出られなさそう。だから代わりにワタシが応対した。日頃から、オットが不在の時はワタシが応対しているのだ。

お客さんと話をして、台所に戻ると、オットがいない
途中で出て行った気配もなかったし、仕事部屋や寝室を見たけれど、そこにもいない。トイレにも電気が点いてない。


神隠し?我が家に突如、四次元空間が出現したのか?!
そんなはず、ないよな



そう思って洗面所へ行くと、洗面所とつながっている風呂場で気配がする。
扉を開けると・・・・・電気も点けず、洗い場にしゃがみ込んで泣いているオットが居た。

「もうお客さんは帰ったから。誰もいないから」
そういうと、のろのろと立ち上がり、台所まで出てきてイスに座った。
が、手にはタオルを持ったまま。それでしきりに顔をぬぐっている。
客の相手さえできない自分が情けなくなり、どうしようもなく泣けてきたそうだ
ワタシが接客する話し声を聞いてるのがいたたまれなくなり、風呂場に籠もったらしい。

なだめ、なだめて、寝室へ上げ、布団に入ってもらった。
でも、布団にもぐってからも泣いていた



翌日、ワタシは朝から出張だった。たぶん帰宅するのは日付が変わるころだろう。昨日のことがあるので心配だったが、仕事を断るわけにはいかないので出てゆく。
そして、12時ちょっと前に戻った。

オットは、まだ台所にいた。
今日は犬を獣医さんのところへ連れて行ってくれ、帰りは仕事仲間のところへ寄ったらしい。
獣医さんの奥さんは、オットの様子がおかしいことに気付かれたようで、帰り際わざわざ駐車場まで出てきて
「私も一時、気分が優れなくて辛い時期があったのよ。主人があんな性格だから。ゆっくり養生して元気になってね」と言葉をかけてくださったそう。この奥さんは私たちより年上だが、先生(ご主人)が天然エキセントリックな性格なので苦労されたらしい。
そして、例のパニック障害で休業していたことがある仕事仲間にも、また話を聞いてもらい、ずいぶんラクになったようだ。

周りの人に恵まれ、ありがたいなそう思った。


そんな話をしながらテーブルの上を見ると、カレーがオムレツに化けていた。ルーにご飯も混ぜこんで、それが玉子でとじてある。めちゃくちゃ巨大だ。
・・・・・
ワタシは仕事帰りに、みんなでラーメンを食べていたのでお腹がすいてなかったけれど、手をつけないのも悪いのでいただく。
味がちょっと薄かったけれど「おいしいね。作ってくれてありがとう」
そう言うと、オットはほっとしたように寝室へ上がっていった。