明くる日。
オットは、友人の仕事の手伝いがあるので早朝に出て行った。昨日は深酒をしたが、ちゃんと起きられたようだ。

そのあとワタシも起きて、家の用事を済ませてから仕事をする。
今は多忙なので、今日はワタシの仕事を手伝ってくれる友人が来てくれる。
10時から6時まで彼女が居てくれるから、二人で仕事。
こういう日は、オットのパソコンも借りる

ちょうど仕事を終えるころ、オットが戻ってきた。

彼女はワタシの古い友人で、オットとも冗談を言い合うほど親しい。
しかし、今日は
「お帰りー。元気にしてる?」と彼女が笑顔で声をかけても仏頂面で、使っていたパソコンを見て「どいてくれ!」と一言。

いつもと違う様子に、おかしいと思った彼女。
すぐにパソコンを明け渡す。そして、ワタシと彼女は下へ降りていった。


「昨日から機嫌が悪いのよ。ごめんね」
そう言うと彼女は
「そうだね。今日は顔つきからして、何かおかしいと思ったわ」

このときは、ワタシもオットがまさかうつ病になっているとは思わなかったので、詳しい説明はせず、彼女は帰っていった。
そして仕事部屋へ上がると、入れ違いにオットは風呂場へと降りてゆく。

「今日のご飯は?」
「いらん!」

この日、交わした言葉はこれだけ

やっぱりこの日も、空きっ腹にお酒を呑んで寝てしまった。
そして次の日も。

さらに翌日。午前中に仕事の用事で出かけたワタシ。
昼までに用事は済ませたけれど、家に帰りたくない気分。
だから、ささやかに趣味の買い物をして、3時半ごろ戻った。

オットは台所で、雑誌を読んでいた。
「ただいま」と言っても無言である。

たまりかねて「どうしてそんなに怒っているのかわからない」と言うと…。


オレが仕事がうまくいかなくてカリカリしているとき、お前は無理矢理、自分の用事を手伝わせた。それに礼も言わず、「できが悪いからやり直せ」と言っただろう。
それでもオレは直してやった。オレはお前の召使いでも使用人でもない。その道のプロでもないのに、出来上がりに偉そうに言われる筋合いはない。
オレがお前の誕生日に買ってやったスゴ録も、喜びもせずそこに放ったらかしだ。おまけに5日前は、オレが仕事のトラブルに追われているのに、お前の母親はのんきに飯を食いに行こうと誘っただろう。
何もかも、オレのことを無視している

オットはそう、立て続けに言った。


たしかに1月中旬、誕生日プレゼントとして、スゴ録を買ってきてくれた。
その時はうれしかったし喜んで、何度もお礼を言ったのだ。
けれどワタシは、こういう機械類の接続が苦手である。だからオットにつないでと頼んだけれど、「自分もわからないから電気屋に頼め」と言ったのだ。で、「ケーブルの分器具が必要だ」と言ったのに、それさえもお前は買ってきていない、と怒った。
それから母親との夕食の件は、ちょうどワタシたちの結婚記念日だったのだけれど、いつも行くことにしているレストランが正月の代休を取っていたので、日を改めるということに。そこで同居しているハハが気を利かせ、誘ったのである。
それも近所の小料理屋だったし、1時間ほどで帰ってきたので、さほど負担になってるとは思わなかった。言い訳になるけれど、このときオットはまだ焦ってるふうに見えなかったし、冗談も言っていた。

そして、ワタシの仕事。
これは、オットにしかできないことがあって前から頼んでいたのだけれど、急に先方から締切を決められてしまったのだ。それでやむなく頼んだのだが、もちろんこれは仕事なので、ちゃんとギャラを払うという約束のもとに、である。
しかし最初に頼んだときは、けんもほろろに断られた。前から約束していたのに…。だからワタシが不機嫌になってブスッとしていたら、気配を察してやってくれた。
ところがやってくれたのは、ワタシが仕事で一日中外出した日。戻ってきて見ると、けっこう雑だったので、いくつかやり直してもらったのである。


これがしかし、いけなかった


自分の仕事でデータ送信のエラーがあり、さらに自分の趣味で使う道具の修理がうまくいかなかったらしい。そこへ来て、ワタシの頼んだ仕事の件があり、誕生日プレゼントや外食の件まで思い出して、一気に爆発したようだ


とにかくこの場を収めるには、謝らないといけないな。
納得いかないけど。
そう思いながらあやまったけれど、「心がこもってない」と言われた。
まぁ事実だけど。

結局、この日も夕食をとらず、オットはお酒を呑んで寝てしまった。