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 フローレの引き渡しを拒否した事に因って、地球とマルメロ星は戦争状態に入り新たな局面に立ち至った。その事に一番心を痛めていたのは彼女自身だった。今のフローレには、静まり返った暗黒の宇宙空間が底知れない地獄のようにさえ思えて来る。そして遂に、その不安が現実の物となってしまったのである。暗黒の中から悪魔の使者がやって来たのだ。ミサイル群が地球に向かっている。それはもうとても迎撃出来ない位に突然の襲撃であった。
〈ああ、地球が――!〉
 フローレの胸は張り裂けそうだ。
 地球は世界各地に爆発が起こり、パニックが起こった。
「第二波キャッチ! こっちへ向かって来ます!」
「迎撃用意! 各砲門開け!」
 ケレスの各砲塔は照準を合わせると直ちに迎撃を開始した。そして一部に損傷はあったが、何とかそ撃破には成功したのである。ケレスは直ちにその補修に掛かると同時に、監視の目を厳しくした。それから間も無くの事であった。大塚長官から連絡が入り、タケルとフローレが管制室へ呼ばれた。
「地球防衛軍の軍法会議が、タケルとフローレの二人に出頭を命じて来たそうだ。直ぐに地球へ行かなくてはならない」
 ケンジは重苦しそうに伝達した。
「あの地球の決定こそ無効なんだ! 人間的じゃない!」
 クラッシャーのメンバーから忽ち反発が起こった。フローレをマルメロ星へ引き渡せいう国際委員会の決定は、とても承服出来る物ではなかった。しかし軍法会議への出頭は拒否出来ない事である。
 ケンジに付き添われて二人はそれに従った。しかしタケルは自分達の執った行動が宇宙に生きる者として当然の事だという信念に変わりは無かった。

 軍法会議場は傍聴人も含めて異様な雰囲気に包まれていた。
「静寂に! それでは検事側から発言を!」
 裁判長の落ち着き払った声が会場に響いた。将官が代わるがわる立って追及を始めた。
「裁判長! 今回の場合は議論の余地がありません! 明神タケルは命令違反を犯したのです! 軍規に則り厳罰に処すべきです!」
「そうだ。命令違反を犯した結果地球にどんな迷惑が及んだか、二人は既に知っている筈だ! マルメロ星は全面戦争を仕掛けて来た!」
「待って下さい!」
 ケンジが弁護に立った。
「貴方方は、今まで彼が地球の為に命を賭けて来た事を、全く無視するというのですか!? 彼はズールから地球を守る為に父を失い、母を失い、兄迄も失ったのです!」
「そうだ!」
 隣の大塚長官も弁護に立った。
「皆さん。そうまでして彼が戦ったエネルギーは何だったと思いますか!? それはたった一人の人間でも大事にしようとする気持ちです!」
 しかしまた将官の反論が述べられた。
「しかし長官、そのフローレという女は地球とは縁も因も無い女ですぞ! そんな者の為に、どうして我々が犠牲にならなければならないのかね!?」
「何をおっしゃるんですか!?」
 ケンジが長官を制して立った。
「彼女は亡命者じゃありませんか!? 宇宙条約にも亡命者は勝手に処分してはいけないと謳ってあるでしょう!」
 会議場は静まり返っていた。
「仮令フローレをマルメロ星へ帰しても、地球が安全だという保証は何所にもありません! ここへ――、地球へ置いて下さい!」
「裁判長! 恩情ある判決を願います!」
 ケンジと長官は熱っぽく訴えた。しかしそれへ、「厳罰だ!」「死刑でも良い!」という非情な声が返って来る。
 その応酬へ割って入るように裁判長が言った。
「明神タケル、立ちなさい! 最後に君の発言を許します!」
 タケルは落ち着いて言った。
「皆さん、フローレの処分の仕方で地球の姿勢が問われるのです。大きく目を開いて下さい」
 実に簡単な証言だった。
「言う事はそれだけかね?」
「はい」
「では、判決を言い渡す!」
 そう言ってフローレも立たせた。
 もし邪魔だと言うならフローレと共に地球を去る、タケルはそう決心していた。
「明神タケルの命令違反は地球の規律の為に許す事が出来ない。しかし彼のこれ迄地球に尽くした功績とフローレに対する気持ちには頷ける物がある。よって当軍法会議に於いて判決を言い渡す事は適当ではないと思われる。後日改めて会議を開いた上で決定する事にする。但しその処分が決定する迄、両名の身柄は其々拘束する」
 その申し渡しを二人は素直に受け入れた。

ケンジはケレスに戻ると、忽ちクラッシャーのメンバーに捕まった。
「タケルとフローレが監禁されてるのは本当ですか!?」
「ああ、別々の防衛軍基地へ監禁された」
 その報告にクラッシャーは愕然としてしまった。
「食い止められなかったんですか!? 大塚長官もいたんでしょう!」
「タケルは間違った事をしていない。しかし地球防衛軍の一員として、規律に従わなかった事は許されない」
 ケンジの厳然とした報告に、アキラもナミダも不満が高まっていた。

 その頃マルメロ星の宮殿では、ギロンが御機嫌でバクトールを呼び付けていた。
「よくやった。地球め狼狽えておるだろう」
「この際一気に叩き潰してしまう為に、グーロの率いる艦隊が既に進撃しています!」
 ギロンもそれには満足そうであった。もうこれで地球もフローレを庇う事は出来ないだろうと思った。
 グーロの艦隊がレーダー視界から消え去って行くのを見詰めながら、これで心配の種が消えるのも近いとほくそ笑んでいるギロンである。それとも知らず、別々の所へ監禁されいるタケルとフローレ、鉄格子の外を見詰めながら呟き合い、軈てテレパシーで対話をするようになっていた。
〈フローレを庇う事は地球に取って不利益かも知れない。しかし宇宙全体の平和を考えれば彼女を守ってこそ――〉
〈タケル――〉
〈フローレ!〉
〈御免なさい、私の為にこんな事になってしまって――! 私は矢張り地球へ来るべきではありませんでした〉
〈俺は君だから特別に助けたとい訳ではい。他の者でも救いを求められたら助ける!  それが銀河に生きる者の務めだ。――俺はそう信じる!〉
 タケルの信念は固かった。見知らぬ者の為にも自らを不利にしながら愛を注ごうとする彼の心を思うと、フローレは居ても立っても居られない気持ちに駆られて行くのだった。フローレの目に溜まり切った涙の中を、カモメが長閑に飛び交い、軈て涙と共に流れ落ちて行った。
 地球へ近づくグーロの艦隊に対して、地球防衛軍は迎撃隊を発進させた。
「フフフ、来たな。全艦攻撃開始!」
 グーロは黒い髪で目つきの悪い若い男であった。彼の艦隊は狂ったように砲撃を始めそのまま地球へ迫って来る。
 コスモ・クラッシャーも発進して行った。もう彼等がグーロ艦隊へ到達する頃には、地球防衛軍の迎撃機の残骸が彼方此方に漂っていた。グーロの艦隊は勢い付いていた。コスモ・クラッシャーに対して戦闘機が次々と襲い掛かって来る。
「甘く見るんじゃねぇ!」
 ナオトは必死で狙い撃っている。しかしその隙に地球へ襲い掛かって来る戦闘機群があり、地上の防衛軍との間に激しい攻防戦展開していた。その様子は既に予知能力で知る事が出来たし、牢の中からもその一部が分かる位に戦闘は移動して来ていた。
「六神ロボ、来い!」
 牢を出る事がどんな事かも考えてはいられない。タケルは飛来したガイヤー目掛けて鉄格子を衝撃波で破って飛び出した。
 ガイヤーと五神ロボは辺りへ散って、グーロの戦闘機群を片っ端から撃破し始めた。しかし戦闘機も死に物狂いである。
「六神合体!」
 各ロボットは集まりゴッドマーズとなり、剣を握り締めると襲い掛かる戦闘機を切り裂いて行った。
 その激しい戦闘の中を潜り抜けるようにしてやって来る者があった。フロンティアである。それは一気に太平洋上の島へ着水した。そして間髪を置かずに海賊達は上陸すると、一糸乱れぬ連係プレーで防衛軍基地へ乱入したのだ。
 ガッシュはその基地の一角を目指して走った。抵抗する者は容赦無くその超能力の餌食にした。そして遂に牢へ辿り着き入り口の鉄扉を破壊した。
「ガッシュ!」
「フローレ、迎えに来た。我々と一緒に来て貰う!」
「嫌です!」
「嫌でも来て貰う!」
 ガッシュの逞しい手がフローレの手首をがっしりと掴んでいた。
「あーっ!」
 フローレは彼の超能力に圧倒されて行く。それは戦闘中のタケルも察知していた。
「フローレの所へ行ってくれ!」
 近づいたコスモ・クラッシャーへ呼び掛けている。
「どうしたタケル!」
「彼女に何か危険が――!」
「分った! フローレは任せろ!」
 コスモ・クラッシャーはフル・パワー島を目指して行った。
 その直後、ゴッドマーズはグーロの司令船に直撃された。
「うわーっ!」
 その巨体が呻り声を上げて地上へ落下して行く。
「やったぞ、このまま一気に奴を叩き潰せ!」
 グーロはゴッドマーズの打倒を目指して猛攻撃に出た。
 その間にコスモ・クラッシャーは目標の島へ接近していた。
「あっ、フロンティア号だ!」
 アキラが島へ接岸しているのを発見した。そして一気に加速して行くとフロンティア号へ乗り込んで行くガッシュと海賊達が見えたのだ。
「奴等、何をしに――!」
「マルメロ星と連動しているのか――!」
 彼等の行動を真意を図り兼ねていたアキラとナオトは間も無く、海賊達に連れ去られて行くフローレを発見したのである。
 ガッシュ達もコスモ・クラッシャーを発見していた。
「攻撃しますか!?」
「いや、向こうから撃って来る事は無い! 直ぐに発進しろ!」
 ガッシュの狙い通り、コスモ・クラッシャーはフロンティア号の頭上へ到達したものの、フローレがいる事を考えると攻撃に出られないでいた。
「タケル! フローレがガッシュに捕まったわ!」
 ミカからの呼び掛けを聞いたタケルは、態勢を整えてグーロの司令船をゴッド・ファイヤーで狙い撃ち、斬り掛った。しかしグーロも必死で抵抗して来る。タケルは焦っていた。
 フロンティア号が上昇していた。
 それを何とか阻止しようとコスモ・クラッシャーは攻撃を加えていたが、フロンティア号はびくともしない。適当に応戦しながらぐんぐん上昇して行く。彼等はコスモ・クラッシャーが本格的に攻撃へ出られないのを完全に見透かしている。
「長居は無用だ、全速前進!」
 フロンティア号は加速しながら霧に包まれて姿を消して行く。
 ゴッドマーズは剣でグーろの司令船の艦橋、そして艦全体を真っ二つに斬り下ろした。やっとの思いでグーロの艦隊を葬り去ったものの、フローレを乗せたフロンティア号は完全に見失ってしまっていた。
「フローレ!」
 タケルは悲痛な叫び声を上げていた。一体フローレという女性を巡って絡んだ糸は、どこまで縺れて行くのだろうか――。それはタケルにも全く分からなかった。