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 ケンジの努力もあってフローレはケレスへ留まる事が許可され、クラッシャーのメンバーは心から彼女を祝福した。
「君の身柄はクラッシャーが隊が預かったんだ。安心してくれよ。どんな敵からも守って見せる」
 ナオトはまるで保護者になったような口振りだし、アキラはせっせとコーヒーを淹れて来てサービスしたりしていた。彼等にはフローレが珍しい存在でもあったのだ。
 ところが突然フローレに変化が現れ出した。それは何かに怯える姿である。思わず手にしたコーヒーカップを落としてしまったのである。
「どうしたのフローレ!?」
 クラッシャーのメンバーはあまりの変化にびっくりしている。彼女の視線は食堂の入り口に釘付けになっていた。
 タケルが入って来てフローレを見詰めていたのだ。
〈何故だ――! 何故彼女は俺を恐れるように――!〉
 何も訳の分からないミカは、そんなタケルを冷やかしたりした。
「貴男も彼女が気になると見えるわね」
「ち、違うよ。そんなんじゃないんだ!」
 タケルは慌てて飛び出して行ってしまった。彼の感じているある不安のような物は、とても仲間に理解されないと思ったからだ。
 タケルはその足で管制室のケンジを訪ねていた。
「フローレの事なんですが――」
「彼女がどうかしたのか?」
「はっきりした事は分からないんですが、彼女の背後には大きな渦を感じるんですよ。大きな、とてつもなく大きな渦を――」
「お前の予知能力っていう奴か――?」
 ケンジはそう言って何かを思い出していた。
 それは救出後病室へ収容されたフローレが、何かに魘されるように呟いた言葉だった。
「私の星はプラスの星――、マイナスの人間は、生きて――、いられない星――」
 魘されながら目には涙さ浮かべていた。
「そのプラスとマイナスというのは何ですか?」
「判らん。そこへお前が入って来たんだ」
 タケルは病室へ様子を見に行った時の、フローレの狼狽ぶりを思い出していた。
「彼女が俺を恐れるのはそのプラスとマイナスに関係があるんでしょうか?」
 しかしケンジはそれに明確な回答を与える事は出来なかった。異星人である彼女が、地球人ではないタケルを本能的に知って驚いたのかも知れないのだ。
〈フローレはあの時超能力で助けを求めていた。すると彼女は超能力者か――!〉
 タケルは苛立っていた。
 しかしフローレももう一寸落ち着いてくれれば、もっと詳しい事を話してくれるに違いない。ケンジは慰めるしか無かった。

 フローレの言うマルメロ星、それは地球と同じ銀河の或る空間にあった。それは二連星であり、共に半径6400キロ、中心距離は25333キロであり、両星の間には大気の橋があった。その二連星の片方には殆どの人が住み、支配者のギロン総統は広大な敷地に塔のような異様な宮殿を建てて、そこで全ての指揮を執っていた。
「バクトール、マイナス超能力者狩りは進んでいるであろうな?」
「はっ。一部の者はマルメロ星を脱出しましたが、探索隊を派遣して探させております!」
 報告しているのは、総司令官のバクトールである。
 ギロンは余り表情を変えない不気味さで厳命した。
「見つけ次第始末せい!」
「はっ」
「生かしておけば必ずこの星をしようと立ち上がるだろう。マルメロ星はは我々プラス超能力者が支配するのだ!」
 それはもう何度も聞かされているギロンの支配者としての哲学であった。
 探索隊の隊長の一人、ザザが走り込んで来た。
「首尾はどうだったのだ」
 透かさずバクトールが聞いた。
「申し訳ありません。一人逃げられてしまいました」
「誰だっ?」
「フローレという17歳の小娘です」
 ギロンの目が微かに怒りを感じさせた。バクトールはそれを背中に感じ取りながら、声高に命じた。
「殺すのだ。そのフローレという女を殺せ!」
「たかが小娘一人です。生き延びたとしても、何も出来はしないでしょう」
 高を括った物言いに、ギロンは怒りと焦りのような物を抑え切れないように言った。
「生かしておけば必ず災いを及ぼす。マイナス超能力者は一人も生かしておいてはならぬ!」
 バクトールもザザも平身低頭した。そしてザザは減点を取り返そうと、フローレは地球人に保護されているのだと報告した。
「地球人だと?」
「はっ、地球という星に住む人類です。そこには巨大なロボットを操るプラス超能力者がおります」
 ザザはゴッドマーズとの戦いを思い出していた。
「プラス超能力者だと!?」
「ならば我々にとって味方じゃないか! どうしてフローレを匿ったりするのだ!」
 ギロンもバクトールも、ザザの報告が納得出来ないようであった。しかし彼等にとって、プラス超能力者の手の中にフローレが逃げ込んだ事は悪い事ではないと思った。
「ザザ、その者に協力させろ! そして必ずフローレを殺すのだ!」
 バクトールは新たな命令を下した。

 不思議な女性の出現でタケルは些か疲れていた。勤務から解放された僅かな時間を割いて私室へ閉じ篭もると、うつらうつらするようになっていた。
 そんなある日の事である。彼が眠りに就くのを待っていたように、忍び込んで来る者がいる。その人影はベッドで寝るタケルをじっと見据えると、両手を組んで攻撃のポーズになった。
「――!」
 タケルは何か分からない不安を感じたのか、全身を緊張させて目を見開いた。殆どそれと同時に人影は衝撃波を放って来たのだ。タケルはベッドから跳び上がり天井へ貼り付いて逃れたが、シーツは一瞬にして引き裂かれてしまった。
「何者だ!」
 人影は更に衝撃波を放って来る。タケルは床へ跳び下りて躱した。また衝撃波が来る。タケルはそれを転がりながら躱し、態勢を整えると逆襲に出た。
「とう!」
 人影もサッと跳んで躱した。〈只者ではない〉、タケルはますます緊張していた。人影が迫る。タケルも迫った。両者の手と手が組み合わされ、強烈なスパークを放って二人を包み込んだ。人影は全身を黒いタイツで覆っていたので顔は見えなかった。
〈超能力のエネルギーが反応し合っている!〉
 タケルは手を振り切ってジャンプすると次の瞬間人影を蹴った。人影は部屋の奥へ吹っ飛んだ。
「いやーっ!」
 飛び掛かって行くと胸倉を掴み上げていた。しかしその時、柔らかな二つの丘を感じた。人影はタケルが怯んだ隙を突いて撥ね退けると、衝撃波を放って来た。
「うわーっ!」
 タケルの肩口から鮮血が流れている。そして次の瞬間、強い力で押し退けられていたのだ。
「待て!」
 人影は疾風の如く部屋を跳び出していた。
「ま、待てーっ!」
 傷の痛みに耐えながら廊下へ出て来ると、真向いの部屋が開いてナオトが飛び出して来た。
「どうした、タケル! 何があったんだ!?」
「何者かに襲われたんだ」
「え!?」
 ナオトはとても信じられないといった顔でタケルを見詰めた。
 タケルは直ぐに病院の治療室へ運ばれ、ナオトからケンジへ報告が行われた。
「敵が忍び込んだのか――?」
「しかし警戒厳重なケレスにどうやって――?」
 クラッシャーの誰もが不思議に思った。しかしその侵入者はフローレを狙って来たに違いない。誰もが一致した意見であった。フローレは不安気にクラッシャーのメンバーから外れて立っていた。
「タケルさんがやられるなんて、よっぽど手強い相手だったんだね」
 ナミダの言葉を受けてケンジは全員に注意を促した。

「ガニメデ・コントロール・タワー、ガニメデ・コントロール・タワー、こちら107便、只今ポイント6通過!」
 ケレスでの騒ぎを余所に、地球の輸送船はガニメデ基地を目指して航行中であった。すると突然その前方に霧のような物が広がる空間を発見したのだ。それにしても宇宙に霧等が掛かる筈も無い。
「あっ、あれは!?」
「宇宙海賊だ!」
 輸送船のブリッジに張り詰めた物が漂う時、広がった霧の中から帆船が現れて来たのだ。
 それは直ちにケレスへ連絡され、出撃命令が出た。
 病室で休養中のタケルも、ミカが止めるのも聞かずに飛び出していた。
「宇宙海賊め、今日こそ正体を暴いてやる!」
 タケルは格納庫へ来るとガイヤーを呼び、一気に事件現場へ向かった。しかし彼が到着した時、既に輸送船の残骸が漂い、海賊船は引き揚げ始めていたのである。
「いたな!」
 ガイヤーが急速接近して行くと、海賊船は一斉に砲撃を開始して反転して行く。
「うわーっ!」
 余りにも激しい砲撃に、流石のタケルもたじたじである。それでも必死で食い下がって行く。その擦れ違い様に海賊船のブリッジにリーダーらしい男の姿を見た。男もガイヤーのコックピットにいるタケルを見ていた。
「逃がすものか!」
 ガイヤーは必死で海賊船へ攻撃を掛けながら接近して行く。しかしその度に猛烈な砲撃を受けて阻まれてしまう。そして遂に、海賊船の周り一面に霧が立ち込めて来て、その霧が薄れ始めた時には既に海賊船の姿は消えてしまっていたのである。
「き、消えた!」
 霧が薄れた後は何時もと変わらない静かな静かな星々の佇まいを見るだけであった。
 タケルがケレスへ戻った時、フローレは展望台から窓外を見詰めていた。
「フローレ、海賊は君が操っているんだな!?」
 タケルの目は厳しかった。
「違います!」
「君との関係は!?」
「知らない! 私には関係無いわ!」
 彼女は俄かに厳しい表情で言い返した。しかしタケルは怒りを抑え切れない位昂って来ていた。
「それじゃ、何故俺を襲った!?」
 フローレの視線は思わずタケルの肩口へ注がれていた。
「貴方が――プラス超能力者だから――!」
 それはタケルにとって全く訳の分からない事である。しかしフローレ自身もその意味をしっかりと理解している訳ではなかった。それよりもフローレにとっては、彼を襲ったのが彼女である事を知りながら、何故タケルが仲間に報告もしなかったのか不思議でならなかった。
「貴方にとってマイナス超能力者の私は邪魔でしょうに!?」
「――俺がプラスで君がマイナス――、それであの時エネルギーが反発し合ったんだな」
「それより、何故私が襲った時手加減したの!?」
「君の力じゃ俺は倒せない!」
「だったら簡単に私を殺せた筈だわ!――何故!?」
「俺は殺人者じゃない! 無闇に人を傷付けたり殺したりはしない!」
 きっぱりと言い切るタケルを見詰めながら、フローレには動揺が起こっていた。自分を追い出し殺そうとしたプラス超能力者と何故こうも違うのか。いやそれとも、何時かタケルもマルメロ星彼等と同じように彼女に敵意を向けるようになるのだろうか。しかし今の二人に関する限り、寧ろ警戒心からとはいえ襲い掛かったのは彼女の方だったのだ。フローレは何か胸に痛みのような物さえ感じているのだった。
 突然緊急ブザーが鳴り響き、クラッシャーへ出動命令が下った。
「マルメロ星の宇宙船団接近中!」
 コスモ・クラッシャーが飛び出して行った。ケンジからの情報によって、マルメロの宇宙船団はフローレを引き渡せ通告して来た事が分かった。
「渡すもんかい!」
 それはクラッシャーの誰もが同じ気持ちだった。
「マーズ。――聞こえるか、マーズ!」
 マルメロ星宇宙船からの問い掛けにタケルはびっくりした。何故彼の事を知っているのだろうか?
「お前の事は調べた。ギシン星のプラス超能力者だという事もな」
「プラス超能力者?」
「どういう事なの、タケル」
 クラッシャーのメンバーは聞き慣れない事で困惑していた。
「連中が勝手に決めている事だ」
 タケルは話を断ち切ろうとした。しかしマルメロ星の宇宙船団からは執拗に迫って来るのだ。
「これはお前に定められた運命だ」
「馬鹿な事を言うな!」
「我々もプラス超能力者、お前の同志だ。プラスとマイナスは戦う運命にあるのだ!」
「誰がそんな馬鹿げた事を決めたんだ!」
「マルメロ星の総統、ギロン閣下だ!」
「黙れ! 俺はマルメロ星人でもギロンとかいう奴の配下でもない! 俺には関係の無い事だ!」
 クラッシャーのメンバーはその息詰まる遣り取りを唖然として聞いていた。
「マーズよ。関係無いでは済まされんぞ。マイナス超能力者はお前を狙って来る! 分かったら我々に協力してフローレをこっちへ渡すんだ! さもなければお前の手で始末しろ!」
「フローレは渡さん!」
 ナオトが叫んでいる。
「地球人よ、高が一人の小娘をどうしてそんなに庇いだてする!」
「殺されると分かっていのにを、みすみす渡せるか!」
 アキラも興奮している。
「後悔しても知らんぞ!」
「どうする気だ!?」
「マーズよ。お前が手を下さなければ我々の手で始末する!」
 そう言ったかと思うと、マルメロ星宇宙船団の司令船から戦闘機が何機も群がって出撃して来た。そしてそれはコスモ・クラッシャーを無視してケレスの方へ向かって行くようである。
「アキラ、急げ! フローレが危ない!」
「了解!」
 コスモ・クラッシャーは直ちに反転し始めた。しかしそれを阻むように司令船は一斉に砲撃して来たのだ。アキラは操縦に必死だった。
「くそっ、ガイヤー!」
 タケルは叫んでいた。
 だがその頃既にマルメロ星の戦闘機群はケレスへ猛攻撃を掛けていたのだ。ケンジは防戦の指揮に必死であった。
 コスモ・クラッシャーも宇宙船団の猛攻に阻まれて、ケレスへ向かう事も出来ない状態である。しかしガイヤーが地球の明神礁から飛来した。
「とう!」
 コスモ・クラッシャーを飛び出したタケルは収納光に導かれてガイヤーへ収容され、直ちに反撃に出た。その動きは素早く、強烈なパンチが司令船へぶち当てられた。
「うわーっ!」
 流石に隊長のザザも怯んだ。
「先に行ってくれ!」
 コスモ・クラッシャーをケレスへ向かわせ、ガイヤーは司令船へ立ち向かった。
 ケンジの指揮でケレスは必死の防衛に努めていた。しかしマルメロ星戦闘機の果敢な攻撃を受けてかなりの被害を出していた。
「キャプテン、来たぜ!」
 コスモ・クラッシャーは戦闘機群へ突っ込み、怒りを露わにして撃破し始めた。
〈タケルが私を守る為に戦っている!――プラス超能力者のタケルが――!〉
 ケレスで戦いの推移を見守っているフローレには、遠く離れて戦っているタケルの努力も手に取るように分かっていた。
〈タケルが何故マイナスの私を――!?〉
 そう思うと居ても立っても居られなかった。フローレは部屋から抜け出すと廊下を走っていた。何処へ行くという当ても無い。しかしじっとしては居られないのだ。
 マルメロ星の司令船はガイヤーに追い詰められていた。
「おのれ、マーズめ! ビッグファイター、フォーメンション・セット!」
 ザザの命令と同時に司令船の艦首が外れて、上端のブリッジ部分が上にスライドして喉元に開いた隙間に砲口が現れ、左右に付属しているブロックの上端の基部が下にスライドしながら起き上がって水平になり、前方から見ると逆様の十字架のようになり、エスパー・ロボ、ビッグファイターとなって行った。
「喰らえっ!」
 ビッグファイターは強烈な攻撃を加えて来た。
「あーっ!」
 ガイヤーはその衝撃で吹っ飛ばされて行った。そしてそれを見届けたようにビッグファイターは一気にケレスへやって来ると、右ブロックの下端から右翼の先端になった部分からワイヤー付きのハサミを射出して突き刺して破壊し始めたのだ。
「シャッターだ! シャッターを閉めろ!」
 ケンジは衝撃を受けて飛ばされそうになりながら懸命に指揮を執っている。
 フローレはその騒ぎの中を抜けて展望室へやって来ていた。その姿をビッグファイターのザザが発見していた。そして次の瞬間、フローレ目掛けてワイヤー付きのハサミを発射して来たのだ。しかしそのハサミをガッと掴み上げた者がある。ガイヤーであった。
「おのれ、邪魔をするなマーズ!」
 怒り狂ったようにガイヤーを押し退けて行く。
「くっ!――ゴッドマーズ!」
 その声と共に、地球から五つの光となってスフィンクス・ウラヌス・タイタン・ラー・シンの五神ロボがやって来る。
 ガイヤーは衝撃波を放ってビッグファイターを押し退け、合体のチャンスを待った。フローレは展望室のガラスに貼り付くようにして、その戦いの全てを見逃すまいとしていた。
「六神合体!」
 ガイヤーと五神ロボは合体を完成してゴッドマーズとなり、ビッグファイターへ立ち向かって行った。
〈何故!?――肩を負傷させたのに――、それでも私を助けようと戦っている――! 何故!?――何故なのタケル!?〉
 フローレは言葉にならない言葉で問い掛けていた。
「ゴッド・ファイヤー!」
 ビッグファイターの手の爪をゴッドマーズの肩で受け止めながら、タケルは逆襲に転じた。
「何故だ! 何故だマーズ! どうしてお前は仲間に歯向かうのだ!? どうしてマイナス超能力者に味方する!?」
「俺はどっちの味方でもない。多くの者を犠牲にするお前達の卑怯なやり方が許せないだけだ!」
 激しく戦い、火花を散らし合いながら、ザザとタケルは信念のような物をぶっつけ合っていた。しかしそれはお互いに受け入れられる物ではない。タケルは叫んだ。
「マーズ・フラッシュ!」
 剣を出して握り閉めると、「ファイナル・ゴッドマーズ!」と絶叫しながらビッグファイターへ斬り掛って行った。
 ドドドドドーッ!
 轟音と共に斬り口から火花を噴き上げながら、ビッグファイターは爆発して散った。
 傷付きながらも、ケレスは守られた。そしてフローレもまた守る事が出来たのであった。

「おのれ!!」
 珍しくギロンは昂っていた。
「バクトール! これは一体どういう事なのだ! ギシン星のプラス超能力者は、わしに反発するというのか!」
 「いえ。マーズが特殊なのだと思われます!」
 バクトールはギロンの怒りを鎮めようとしていた。
「それは何故だ!?」
「地球で育てられ、地球的な物の考え方をするようになったためでありましょう」
 同じプラス超能力者でありながら意志が通じないという事は、そうでも言わなければ納得出来る事ではなかった。
「危険だ! プラス超能力者の癖にわしに歯向かうとは――! 大いに危険だぞバクトール!」
 ギロンはタケルという存在が、自分の野望の前に立ち塞がる侮り難い物になる事を感じ始めているのであった。