侵襲性髄膜炎(IMD)という言葉を知ってますか??


髄膜炎とはご存知の通り、ウィルス性髄膜炎と怖い怖い細菌性髄膜炎がありますね。


細菌性髄膜炎とは以前から書いているように僕ら小児科医が最も恐れる病気の一つです。

その大半の原因菌はヒブと肺炎球菌であり、このワクチンが日本で導入されてから国内での細菌性髄膜炎の患者数は9割以上減少させることができました。


恐ろしい病気で命を落とす子供が減ったってことです。


でもそれ以外の1割の髄膜炎は何でしょうか??


代表的なものとして新生児が産まれてすぐにかかる大腸菌やGBSによる髄膜炎が有名です。

これはNICUに勤務していた僕らなどにはおなじみです。


そして、ごくまれだけれどかかると非常に恐ろしい髄膜炎が、この侵襲性髄膜炎です。

原因は髄膜炎菌というものです。



侵襲性というだけあって、発症してから数時間から2日以内に急激に悪化して死亡してしまうという、恐ろしい進行度です。


熱や風邪症状で発症し、数時間後には痙攣やショックを起こし、その段階で髄膜炎菌を考えて適切な治療を施したとしても2日後には死亡してしまうこともあるし、万が一助かっても重篤な後遺症を残します。


ヒブと肺炎球菌による髄膜炎がほぼ撲滅されているアメリカでは、残るはこの髄膜炎菌による髄膜炎が課題となっており、すでに定期接種となってます。


髄膜炎菌の特徴はいくつかあるのですが、



1.地域流行性がある


髄膜炎で流行性を示すのはこれくらいです。

場合によっては集団感染といった事例が日本でもあります。

この菌は主に中央アフリカの「髄膜炎ベルト地帯」と呼ばれる地域で流行していて、それ以外の地域ではあまり流行しません。

じゃあだからといった安全かどうかというのは、先日のエボラ流行で世界中が混乱したのを思い出していただけば分かるでしょう。



これは世界中を飛ぶ飛行機の航路図です。

このように、もう飛ばない場所は無いってくらい、くまなく飛び回ってますよね。

しかも数時間で。


中央アフリカでしか流行していない感染症を、果たして対岸の火事だと決めつけてよいと思いますか?

実際、幸い日本に持ち込まれませんでしたが、潜伏期間が短く短時間で死んでしまうため広範囲に広がりにくいとされていたエボラはこういった経路で欧米にまで広がったわけです。


日本への旅行者は年々増加しており、これからオリンピックも控えています。

世界中からいろんな病気が飛行機で持ち込まれることに対して、もっと我々は危機感を持たなければならないと考えます。



2.全年齢で発症する


例えばヒブや肺炎球菌のほとんどは乳幼児です。

乳幼児さえ予防しておけば、とりあえずOKでした。

ところがこの髄膜炎は、すべての年齢層で発症します。

欧米の統計でも、10代の患者層が最も多く、次いで1歳未満の乳児が多いのですが、それ以外の年齢層でも一定の発症率を示しています。


上記のようにいつ持ち込まれて集団発生するかもしれない、しかも一度かかれば命に係わる恐ろしい感染症ですから、全年齢層において気を付けなければならないと考えます。



3.予防できるワクチンがある


髄膜炎菌を予防できるワクチンがあります。

アメリカ・カナダなどではすでに(州によって異なりますが)定期予防接種となっており、みんな無料で接種できます。

日本でも先月ようやくワクチンが承認されて発売されました。

当然定期予防接種ではないので有料です。


ワクチンに関してはまた後日書きます。



世の中には予防しても予防しても、まだまだたくさんの恐ろしい病気があります。


今までは「日本だから大丈夫」といった認識でした。

でも上記したようにエボラであったりとか、最近話題のMERSのようなものが簡単に国内に持ち込まれてしまうのが今の状況です。


現時点ではまだまだ頻度の低い感染症かもしれません。

日本での髄膜炎菌性髄膜炎の患者数は、だいたい年間100人程度と言われていますから、決して多いわけではないですよね。


でも、以前の記事で書いたように、じゃあ自分がかからない保証はどこに??

何万分の一の確率で自分あるいは自分の子供が当たってしまうわけで、しかもそれが罹れば数時間以内に命を落としてしまう恐ろしい感染症であって、それに対する予防方法があるのだとしたら??


その経験と辛さを知っている僕としては、迷わずワクチンを選ぶでしょう。



侵襲性髄膜炎に関して、日本ではまだまだ認知がされていないのが現状だと思います。


ですが、こんな恐ろしい病気があるってこと、そしてそれが実は意外に身近に存在しているんだってことを、知識として持っておくことは決して損ではないと思います