新規のアイドルグループを立ち上げる際のビジネスモデルの設定について記事にします。


 まず前提としてアイドルを含むアーティストは曲がヒットしてブレイクするのが一般的な売れ方であるということです。しかし、確実に曲をヒットさせるビジネスモデルがある訳でなく作曲家や歌手に才能があればヒットする可能性が上がるだけです。従って新規のアイドルグループについてもヒットの不確実性があることを考慮してビジネスモデルを設定する必要があります。


 ビジネスモデルの話なので今回は初期投資-イニシャルコストと運営費用-ランニングコストに注目して分類します。最終的に固定メンバーについて検討したいのでその点も分類に加えます。


1 小規模固定メンバー

 イニシャルコスト 小、ランニングコスト 小 

 ヒットするかどうか確実でないならイニシャルコストやランニングコストを抑えて運営するのが常識的な判断だといえます。多くのアイドルグループはこのビジネスモデルとなっています。アイドル活動をヒットする可能性はありますがそうならない可能性の方が高く収益がランニングコストを下回るようになると活動終了となります。

 このビジネスモデルはアーティストの場合は現在一般的なデビューモデルとなっています。自分の楽曲をSNSや音楽サイトに上げてバズればメジャーデビューできます。自分でマネジメント出来るならインディーズのまま収益をあげることも可能です。


2 小規模 メンバー補充型

 イニシャルコスト 小、ランニングコスト 小 

 これは1のパターンである程度の収益があるグループが取りうるビジネスモデルのひとつです。これはヒットの不確実性の評価に関係します。新しいグループを作って失敗するより既存のグループにメンバーを追加して活動期間を延ばした方が良いという判断です。アイドル活動は継続しますがこのビジネスモデルには問題点があります。それはメンバー補充により一時的にパフォーマンスが落ちることやメンバー卒業に対する補充の場合は元のメンバーの人気に追い付くまで時間が掛かるなどの弊害があることです。もちろん補充されたメンバーが有能で以前より人気が上がる可能性もありますがそれならなおさら補充ではなく新規グループを立ち上げた方がヒットの可能性が高くなると思われます。ビジネス継続に重きを置いた保守的なビジネスモデルと言えます。


3 練習生-固定メンバー

  イニシャルコスト 大、ランニングコスト 中

 多数の練習生の中から有望なメンバーをデビューさせるビジネスモデルです。これはジャニーズや韓国アイドルで成功している方法です。訓練を受けた上で有望なメンバーをピックアップするので何もない場合より遥かにブレイクする可能性は高くなります。その代わりに大勢の練習生を維持するのにイニシャルコストが掛かります。またグループがデビューした後もそれで練習生を解散する訳でなく練習生を確保したまま次のグループをデビューさせるのが一般的です。従ってランニングコストに練習生の維持費がのります。

 このビジネスモデルは成功しているビジネスモデルですがイニシャルコストが高く練習生のレッスン期間も必要なので新規参入のハードルが高いといえます。


4 練習生-メンバー補充型

  イニシャルコスト 大、ランニングコスト 中

 3と似てますが練習生が既存のグループの補充にまわるタイプでモーニング娘。が該当します。3のタイプとの違いは練習生の数が少ない点です。練習生がデビューできるまで成長しても練習生数が少なくて新グループを作れない場合は既存のグループの補充という形になります。新グループを作れる場合でも3のタイプほどはブレイクする可能性が高くなるわけではありません。仮に練習生が12名で6名の新グループを作ると仮定するとブレイクする可能性は倍になるかもしれませんが大勢の練習生から6名を選んでグレープを作った場合の方が可能性は高いと思われます。

 このビジネスモデルはビジネス継続を目的としているといえます。練習生はレッスンしてからグループ参加するので2のタイプの一時的なパフォーマンスの低下は軽減されますが卒業生の人気に追い付くまで時間が掛かる弊害が起きる可能性はあると思います。3タイプほどではありませんが練習生を維持するため若干イニシャルコストやランニングコストが掛かります。


5 大規模-メンバー選抜、メンバー補充

 イニシャルコスト 大、ランニングコスト 大

 これは坂道グループやAKBグループで行われているビジネスモデルです。これはCD売上を握手会と紐付けというアイデアでメンバー数が多ければCD売上が増えるという仕組みです。メンバー数が多いので表題曲の参加メンバーが必然的に選抜メンバーとなります。

 このビジネスモデルの評価は時代とともに変わってきています。当初はCD売上が多いので人気があるという印象を与えてブレイクの可能性をあげる手法でしたが現在はCD売上は楽曲の評価でなくファン数とその熱量で決まることが周知されてきたのでCD売上が一般層にアピールする度合いが低下しました。また、ストリーミングが普及してCD売上より再生回数の方がアピール度が高くなりました。もちろん今でもミリオン(100万枚)ならそれなりのインパクトがあると思いますが女性アイドルグループでは乃木坂もコロナ禍以降は初週売上でミリオンに届くことはありません。AKBも以前はAKBグループでミリオンセールスでしたが現在はグループ毎のリリースなのでミリオンではありません。現在の大規模-メンバー選抜のビジネスモデルはビジネス継続型に変わったと言えるでしょう。

 このビジネスモデルは多数のメンバーを抱えるのでイニシャルコストもランニングコストも高いビジネスモデルですがCD単価が高く利益率も高いのでビジネス継続はできています。ただ国内では日向坂の分離独立以降このビジネスモデルの新規参入はありません。


6 番組オーディション-固定メンバー

イニシャルコスト 大、ランニングコスト 中

最近のアイドルグループデビューで番組オーディションを開催して選抜メンバーデビューするパターンがあります。韓国のオーディション番組からのトレンドですが韓国の場合オーディション対象者が各事務所の練習生の場合が多いのでそれは3のパターンの変形といえます。ここではオーディション対象に素人を含む番組オーディションを対象としてます。

 このビジネスモデルは番組が注目を集めればブレイクの可能性が高くなります。ただしイニシャルコストは高くなります。SKI-HIさんがオーディションを開いた時は私財1億円を投じたと宣伝していました。ランニングコストに関してはメンバー数に応じたコストとなりますが10名前後のメンバー数となることが多いのでランニングコストは「中」としました。



 新規アイドルグループのビジネスモデルを分類してみましたがブレイクの不確実性の対応方法により2通りに分けられます。イニシャルコストを掛けてブレイクする可能性を上げてデビューするかアイドルビジネスを長く継続してブレイクのチャンスを待つかです。

 固定メンバーに関しては3の練習生の場合は時間を掛けてメンバーを選んでいるので固定メンバーとなりますし、6の番組オーディションの場合はオーディションで選ばれたという大義名分があるので固定メンバーとなります。



 このようにパターン分けするとイコラブは1のパターンと言えます。ただし最初のメンバー数が12名と多いので「中規模-固定メンバー」でイニシャルコスト 中、ランニングコスト 中となります。

 イコラブはブレイクするための特別な仕組みが無くデビューしていますが現在アイドルビジネスは成功しているといえます。つまり一般層に知られているヒット曲が無いのにアイドルビジネスが成功している事例となります。さらにこのままメンバー補充が無いとするとビジネスが成功しているのにグループの継続を行わないビジネスモデルとなります。

 

 イコラブの結成当初はどうなるか分からない状態でしたが現在は3グループを立ち上げてそれぞれアイドルビジネスは成功していると言えるので関係者は事業継承を考えていると思います。それぞれの関係者の思惑については改めて「第4のグループの可能性」として記事にする予定です。