<フランスに来る前に学んだこと>
1. 語学
a. 英語
b. フランス語
2. 文学・哲学・現代思想
a. 「私」という存在は、決して自立、安定したものではない。
通常「私」とは、ひとつの独立した、確固たる存在だと思われている。しかし「私」という存在は、決して自立、安定したものではない。フロイトは、「私」のなかにありながら「私」が支配できないもの、「無意識」を発見した。「私」とは、常に「なんだかよく分からない不気味なもの」を内包しているのである。また構造主義は、「私」は「私」がいる社会によって作られる、ということを提唱した。「私」が使う言葉は社会の公共物であり、「私」の仕草や考え方も、同時代の社会に強く拘束されている。さらに「私」のアイデンティティーを構築する性別や身分も、「私」だけに属するものではない。「本当の私」や「私だけの独自性」といったものは幻想にすぎない。「私」とは、ある特定の社会システムの産物である。(このような構造主義の考え方に対する批判も存在する。)
b. 「私」は他者の承認を求める
人間が尊厳を保つには、他者から認められる必要がある。パリの社交界から絶縁されたルソーは、ひとりで田舎にこもり、自分の著作を読んだ後世の読者が自分のことを正当に評価してくれることを望んだ。同時代の誰からも認められない彼は、後世の読者という理想の他者を頭の中で作り出し、いずれ彼らによって認められるということに希望を見出したのである。また、無名の詩人だった二十代のアルトーは、当時、文学界の権威だったリヴィエールに送った手紙の中で、自分の詩を「絶対的」な視点から「裁いて」くれることを懇願している。アルトーは、リヴィエールのことを神にも匹敵するような他者として祭り上げ、その他者に認めてもらうことで、自分の存在の正当性を確保しようとしたのである。
<フランスで学んだこと>
1. Communication(コミュニケーション)の問題
フランスでは、意見の異なる者と徹底的に話し合うことがポジティブとされる。これは、言葉は全てを表現できるはずだという確信、および弁証法の伝統に起因するものと思われる。
2. economie(経済性)の問題
フランスでは、明確な目的のために限られた資源を最も効率よく使うことが意識される。闇雲ながんばりは効率が悪い。
3. Communaute(共同体)の問題
a. 哲学的視点
人間が尊厳を持って生きていくには、他者によって自分の価値が認められることが必要となる。そのためには、自分を認めてくれる他者をストックしておいてくれる共同体、そして自分に積極的な役割を与えてくれる物語が不可欠である。
<補足>
社会の中に自分の役割を見出すことができずに、苦しむ人たちがいる。フランスの新聞、リベラシオンは数ヶ月前、ロシアで高齢者の自殺が増えている、という記事を掲載した。この記事は、「ロシアの貧しい老人たちは、資本主義となった現在の社会の中では自分たちが果たす役割がない、経済的な生産能力のない自分たちの存在は社会の迷惑でしかないと感じている」、という心理学者の見解を載せている。
b. 社会的視点
資本主義のグローバル化は個人に、市場経済を構成するひとつのユニットとして世界に参入すること、そして常に競争することを強いる。しかし、昨年の金融危機をきっかけとして、このような市場原理主義のあり方が問われるようになった。経済的競争から離れて個人が安らぎを感じられるような場所、そしてそれを可能にする共同体の必要性が言われはじめている。
<補足>
α. フランソワ・フィオン首相の命を受けて、リュック・フェリーは金融危機以後の世界においてフランスが採るべき基本方針をまとめたレポートを作成した。このレポートは、1)国民は市場経済における自由競争の犠牲になっている、2)政府の役割は、彼らの私生活を守り、充実させることだ、として、家族への給付金の拡充などを訴えている。
β. フランスの哲学者、ドゥブレは、個人が直に自由競争に参入しなければならない現代だからこそ、友愛によって結び付けられた、個人を保護してくれるような共同体が必要であることを訴えている。