エル・ゴルドっていうの。
小さな村で、まとまって高額当選が出た宝くじ。
億や千万の単位じゃなくていいから、あやかりたいね。
えっ?
買わなきゃ当たらない。
わはは。
宝くじ。
昔、昔、ぬか喜びをした経験がある。
おいらが東京で働いていた頃のことだ。
当時の売り場は、今当たり前に目にするような売り場は少なくて、おばちゃんひとりが座って仕事をするような狭いスペースだった。
プレハブの掘っ立て小屋のようなもので、冷暖房はなく冬は足元にストーブを置いて暖を取り、またひざ掛け毛布も欠かせないアイテムだった。
新橋駅のSL広場にもその小屋が幾つもあり、小屋の主たるおばちゃんは、それぞれの顧客を抱えていた。
おいらにも話しやすいから通うおばちゃんがいて、必ずといっていいほど彼女からくじを買い、当落を確認をしてもらっていた。
年末も迫り、街が賑やかになっている頃、知人とふたりでSL広場を歩いていた。
「丸子君、メシでも食って行こうか?」
「いいっすねえ。
おいら、宝くじを買ったんですがね。
締め切り過ぎたのに、まだ見てもらってないんです。
丁度いいや。
見てもらいましょう。
もし当たっていたら、おいらがゴチしますよ」
「ほんとか?
男に二言はないよな?」
「もちろん。
なんだったら、ビールを付けましょう。
いや、そんなせこい話はなし。
ぱあっと行きましょう、ぱあっと」
馴染みのおばちゃん。
「あれ?お兄ちゃん。
久しぶりだね」
「おばちゃん、寒いね。
身体大事にね」
「おや、優しいじゃないか。
買うのかい?」
「今日は、見てもらいに寄ったの」
「分かった。
ちょっと待っててね」
彼女が座る椅子の周りには、宝くじだの当落を確認する台帳だのなんだの色んなアイテムが置いてある。
今のように、くじを入れて当落を確認する機械を設置している売り場は少ない。
おばちゃんが、くじと台帳を見比べ、当たった外れたと客と一緒に喜んでくれる。
「あれ?」
「どうしたの?
当たってる?」
「うん。
当たってる」
「えっ!?
本当?
幾ら?」
「そう、焦らないの
もう一回見るから」
このおばちゃんの様子に、知人に夕飯を奢る話も現実になりそうで、おいらは舞い上がり…
「調べがついた」
「い、幾ら?
何千万?
100万でもいいよ。
おばちゃんにも、ご祝儀上げちゃう」
「ええとね」
「うん、うん」
「千円」
「?
今、なんていった?」
「千円」
「たったそれだけ?」
「それだけって、千円も当たってよかったじゃない」
「…」
おばちゃんがいうには、当たって100円がほとんどなのに、千円も当たればいい方だと。
そのやり取りを楽しんでいた知人は
「1000円でも当たりは当たり。
約束通り、奢ってもらうね」
彼には色々お世話になっている。
食事くらい奢って当然と思っているが、たった千円の当たりで、売り場のおばちゃんがあれほど騒ぐとは考えもしなかったぜ。
あの時は、数十分ながら夢の世界を彷徨ったっけなあ…