オイシックス・ラ・大地の2024年3月期 第1四半期(Q1)決算が
8月10日に公表されました。
この会社の収益の柱は「国内サブスク事業」で、
以下3つのブランドで国内の消費者向けに食材を
宅配で販売しています;
① Oisix; 全社売上の 52%を担う主力事業。
② らでぃっしゅぼーや; 全社売上の 15%
③ 大地を守る会; 全社売上の 11%
計 全社売上の 77% (2023/3期実績)
社名は、この3事業の最初の文字を取ってできたものです。
上記の他に米国でのサブスク事業(全社売上の9%、赤字)や
その他事業(後述)も行なっています。
決算内容を見る前に、株価の動きを週足で見てみます。
週足
当社の株価は2021年11月頃から下降トレンドに入り、
一時は5,000円前後であったのが2022年6月には
1,400円台にまで下がりました。
そこからは緩やかな上昇トレンドに入っていたが、
5月頃からまた下降トレンドに入ったようです。
直近の動きを日足で見てみます。
日足
5月11日の2023/3期 通期決算を発表を受け翌日の株価は急騰、
数日後には 1年以上ぶりに 3,000円を超えたが、すぐに反転し
2,200円近辺まで急落。
以後は一旦戻したものの、6月下旬からはジリジリ下げ、
8月9日には 200日線を下抜け、そして8月10日、
終値 2,207円で新年度Q1の決算発表を迎えました。
それでは決算の中身を見てみましょう。
当期決算: 増収増益。
a) 当年度Q1売上は前年同期比 5%増、営業利益は 14%増。
通期見通し比の進捗率は、売上 23%、営業利益 18%
売上と営業利益率の四半期別推移は下図の通り。
売上は2020/3期 後半から2021/3期 前半にかけて急拡大。
これは、コロナ禍初期の宅配需要急増が主要因。
以後はスピードは緩やかになったものの上昇傾向を継続。
2022/3期、2023/3期共にQ3の売上が突出しているのは
10〜12月なのでクリスマス/正月需要(特にお節)だと思われる。
営業利益率は以前は 6%前後だったものが、
2022/3期 Q4に赤字転落。
その最大の原因は新設の物流センターのトラブル。
2023/3期に入ってトラブルも解決し営業利益は黒字化し
営業利益率は 3〜5%程度に回復したが、Q4は 0.2%に下落。
この原因はQ4に特別追加PR費 11億円をかけた事。
この結果、Oisix事業の会員数が約33,000人増加。
特別追加PR終了後の当期Q1は会員増は約3,000人に
留まったが、増加傾向を維持した。
そして、当期Q1の営業利益率は 3.8%に回復した。
安全性: 差し迫っての不安はないが、改善が必要。
a) 流動比率は120%
一般的に「余裕あり」と言われる200%には遠く、
「厳しい」と言われる100%に近い。
前年度末の117%からほぼ横這い。
前々年度末は179%あったが前年度に悪化した原因は
投資有価証券の大幅増(シダックスへの出資)と
その資金の殆どを短期借入金で賄った事と見られる。
b) 営業キャッシュフローは少なくとも過去6年間は常にプラス。
このQ1は非公開だが、筆者の試算ではほぼトントン。
これは前年度の法人税支払いがあった為で、Q2以降は
プラスになると推察される。
c) 売掛金回収期間は1.0ヵ月、在庫期間は0.5ヵ月で、危なげない。
d) 上記より、財務面での安全性は何か非常事態が起こらない
限りは問題はないと思うが、非常事態が起きても
耐えられるように改善すべき。
その為には投資資金を長期借入金など
すぐに返す必要のない資金で賄うべきで、
銀行などと交渉しこの点を改善していくべきと考える。
収益性: 営業利益率が低いが、改善傾向
a) 売上総利益率は前年度は 48%、当期Q1は 50%と安定的に高い。
b) 営業利益率の推移は下図赤線の通り:
2021/3期は例外的に高いが(と言っても 7.5%で一般的に見て
高い訳ではない)この原因はコロナ禍での外出制限により
会員一人当たりの売上(略称ARPU)が増加した事。
それ以外は 2~4%程度で低めだが、2024/3期は 4.7%に改善を計画。
利益率改善の鍵は以下の2つの取り組み;
① 商品原価削減;
2022年10月稼働開始のフードレスキューセンター(フードロスを
削減し従来捨てられていた部分の商品化を行う施設)を活用。
原価削減状況は以下の通り;
② 物流費削減;
2022年1月稼働開始の海老名の物流拠点(冷蔵)が、
開始直後はトラブルを起こし収益の足を引っ張ったが、
既にトラブルは解消し現在は物流効率改善に貢献中。
更に2025年春には厚木の冷凍用の物流拠点が
稼働開始予定で、その前後には現在の拠点からの
移転に伴い一時的に効率が悪化するが、軌道に載れば
物流効率改善に貢献する予定。
収益性は今は低いが、今後は着実に改善すると期待される。
成長性: 一時鈍化したが、回復傾向
a) 収益性の項の青い棒グラフ参照。
2017/3期から2021/3期までの4年間で売上は年平均 44%上昇。
だが、以降は主に後述の問題により成長が鈍化し、
2022/3期は年率 13%増、2023/3期は 1%の微増に留まった。
成長鈍化の主要因;
① 2022年1月に発生した物流トラブル。
(物流拠点を新設倉庫に移した際に起きた混乱による)
② コロナ禍による行動制限を受けて会員一人当たり売上高が
大きく伸びたが、行動制限緩和に伴い下降した。
→ これに会員増が追いつかず、売上の伸びが落ちた。
しかし、物流トラブルは解消済み。
会員一人当たり売上高(略称ARPU)はコロナ前の水準に近い所まで
落ちて安定してきており(下図)、当期Q1は直前の四半期より改善。
今後は会員増がそのまま売上増に繋がると期待される。
2019/3期Q4〜2023/3期Q4のARPU推移;
直近のARPU推移(ブランド別);
b) 国内サブスク事業は会員増により売上増を図っているが、
並行して以下の新規事業を育成中。現在は全社売上の 15%
のみだが、今後に期待。
① B2B事業(給食);
⇒ 保育園にミールキットを供給中。2023/3時点で 740園。
⇒シダックスの株式28%を取得済み。同社が調理を請け負っている
医療施設や高齢者施設、保育園などへの食材提供を模索中。
② 次世代フードの製造/販売」の取組。
特に代替タンパクは期待大。
総括;
① 2023/3期には売上の伸びは鈍化、利益率も低調だったが、
物流問題が解決しコロナ禍の影響での振幅も安定してきており
2024/3期から当社の実力が発揮され始めると期待される。
② 通期計画に対する進捗率は 23%とまずまず。
営業利益は 18%で出遅れ感があるようにも見えるが、
営業利益率が前期の 2.9%から当期(通期)見通し 4.7%に
改善を図っている中でQ1実績は 3.8%であり、
改善過程での数字としてまずまずと思う。
③ 今後は以下事業の収益貢献が期待できる;
・B2Bサブスク
・次世代フード
以上です。
このオイシックス、株式投資に興味ある方は、会社の事をより良く
知るためにも、一度サービスを試してみてはいかがでしょうか?
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。
以上です。