先月、上場企業のエニーカラー(略称エニカラ)の決算内容に
関する記事をこのブログに掲載しました。
エニカラと同様にYouTubeを主なプラットフォームとするビジネスを
展開している上場企業にUUUMがあります。
この2社、何がどう違うのか?
比較してみました。
(1) 株価
エニカラの日足;
2017年5月設立、2022年6月に上場。
株価は上場直後に上下した後は 6,000円前後に落ち着いたが
9月に急騰、以後は10,000〜13,000円近辺で推移。
だが11〜12月に急落し6,000円程度に戻ってしまった。
続いてUUUMの月足(敢えて時間軸を変えています);
2013年6月設立、2017年8月上場。
エニカラのほぼ 4年前に設立され5年前に上場した先輩です。
上場後は2,000円前後で推移。それが急騰し4,000〜6000円近辺で
推移するようになったが、その後に急落し2,000円前後に戻った。
ここまでの動きが緑の円で囲った部分で、エニカラとは時間軸が
違うもののチャートの形がそっくりです。
そして、UUUMの場合は、そこから更に半分の1,000円前後まで
下がっています。
さて、エニカラも今後はUUUMと似た道を辿るのか?
2023/1/13時点での株価と指標は;
エニカラ | UUUM |
株価 6,230円 848円
PER 35.2 21.5〜25.8
時価総額. 1,869億円 112億円
(PERは当期利益見通しで計算、UUUMの見通しは幅を持たせてある)
この株価や指標だけを見るとエニカラの方が割高に見えます。
ならばこの後にエニカラがUUUMと同じ道を辿って下がって
いくのも道理のようにも思えます。
本当にそうなのか?
会社の中身を見てみましょう。
(2) 基本情報
エニカラ | UUUM | |
従業員数 | 269人 | 572人 |
資本金 | 139百万円 | 834百万円 |
売上(直近上期) | 120億円 | 121億円 |
総資産(直近上期末) | 133億円 | 112億円 |
「直近上期」とは;
エニカラは2023年4月期の上期、即ち2022年5月~10月で、
UUUMは2023年5月期の上期、即ち2022年6月~11月の事です。
ざっくり言うと,エニカラはUUUMに比べ従業員数で半分程度、
資本金は1/6程度でありながら、同程度の売上を上げ、
総資産は若干大きい会社... ということですね。
会社の規模と売上だけを見ると、エニカラの方がUUUMより効率が
良さそうに見えますね。
(3) 財務状況(直近上期)
エニカラ | UUUM | |||
安全性 | ||||
流動比率 | 336% | 137% | ||
営業キャッシュフロー(百万円) | 2,457 | -595 | ||
収益性 | ||||
売上総利益率 | 44% | 32% | ||
営業利益率 | 36% | 4% | ||
成長性(売上伸び率) | ||||
前期までの 3年CAGR | 154% | 6% | ||
当期上期の前年同期比 | 92% | 11% | ||
当期の通期見通しの前年同期比 | 59% | 21% |
安全性、収益性、成長性、全ての面でエニカラの方が優秀なようです。
特に営業利益率が 36%と極めて良好。営業キャッシュフローも大きくプラス。
しかも過去3年間の売上が年間平均154%増(毎年2.5倍に伸びた格好)と
急成長を遂げており、当期見通しも前年比 59%と高い伸びを
維持しています。(上期実績は 92%増です)
一方、UUUMの営業利益率は4%と標準よりも低く、
営業キャッシュフローはマイナス。お金を稼げていません。
売上も当期見通しは 21%増と立派な数字を目指していますが
過去3年は年平均 6%増に留まっています。
この財務状況を見ると、エニカラは純然たる「グロース株」
UUUMは「グロース株」と言うには成長性に欠け、
しかも収益性も低く、投資対象として見劣りします。
つまり株価やPERで差が出てしかるべきと言え、
(1)で述べた「エニカラの方が割高」は当てはまらない
ように思えます。
両社の差はどこから来ているのでしょうか?
(4) クリエイター;
両社の最も特徴的な違いは、そこに所属してYouTubeに
映像などを配信している人々(両社とも「クリエイター」と
呼んでいます)が全く異なる点です。
写真で見ればよくわかります。
UUUMは以下のような人達、いわゆるユーチューバー達です。
一般の人にも名の通った有名人が結構いますね。
「トップクリエイター」と呼ばれる専属クリエイターが 188人、
「中堅クリエイター」と呼ばれる人が数千人単位でおられるようです。
勝手な想像ですが;
→ 収益の多くを一部の有名人に依存しているのではないか?
→ 有名人に対してUUUMの機能はなんだろう?
大きな機能が無い場合、有名人に有利な収益配分になるだろうな?
→ 数千人単位のクリエイターの管理は結構手間がかかりそう?
などと思ってしまいます。
一方、エニカラのクリエイターは以下;
顔出しせずにアニメキャラクターに扮している方々、
いわゆる「VTuber」達で、VTuber達のグループ「にじさんじ」を
運営しているのがこのエニカラです。
この「にじさんじ」というブランド展開に力を入れています。
→ クリエイターにとって「にじさんじ」のブランドは魅力か?
エニカラは彼らにモーションキャプチャーのアプリを提供しています。
(アプリを利用すれば、本人の動きそのままにキャラクターを動かせる)
→ エニカラの大きな機能か?
エニカラのクリエイターは 169人
→ 数千人を抱えるUUUMより管理は楽か?
クリエイター毎の収益貢献度は以下の通りで、割と分散されているようです。
この「クリエイターのタイプ、数、依存度」などの違いが
両社の収益力に差を付けた要因かもしれません。
(5) 収益の柱
両社の収益は以下の様な活動で得られています。
これをクリエイターと分けている格好です。
①You Tubeでのライブストリーミングによる収入
(ユーザーの投げ銭や課金、広告収入など)
②クリエイターの映像/画像/音声やキャラクターグッズの販売
③企業との協業(マーケティング支援など)による協賛手数料など。
④その他、ライブイベント開催によるチケット収入など。
これらの割合は以下の通り;
エニカラはグッズ販売が非常に多い。
ここで「グッズ」というのは「デジタルグッズ」も含みます、
というか、エニカラの場合はデジタルグッズが主流だと思われます。
デジタルグッズって何か?
例えば「ボイス」
以下の様なもので、キャラクターがその声で色々語ったりしているものです。
キャラクター毎、季節毎に多種多様な商品が並んでいます。
これは、アニメキャラクターだからこそ売れるのかも。
つまり、エニカラの強みと言えるでしょう。
一方で、UUUMはストリーミングからの収入と
企業とのタイアップによる収入が多い。
これは、4〜5年先輩、かつ有名人を多数抱えている
UUUMの強みを活かしたものでしょう。
しかし、UUUMの資料によればストリーミングからの収入は
利益率が低いらしく、UUUM自身もストリーミング以外の
収益を伸ばす事に注力している模様です。
→ 実際に今期上期はグッズ販売が前年同期比 2.7倍に増加しており
これが全社の利益率を押し上げたとの事。
「グッズ販売の強さ」
これも両社の収益力に差を付けた要因かもしれません。
結論;
① エニカラとUUUMとは同じ業界で似たビジネスモデルを
展開しているが、両社の収益力や成長性は大きく異なっている。
②差を生んでいる要因(エニカラの強み)は以下と考えられる。
・クリエイターの姿がアニメで、デジタルグッズ販売に強い。
・エニカラがクリエイターに対し強い機能を持っている。
(モーションキャプチャーのアプリや「にじさんじ」ブランド)
・クリエイターの数はUUUMと比較し少数精鋭。
でありながら少数への売上依存度はそれ程高くない。
さて、こういう違いがあってもエニカラの株価がUUUMの
辿った道を辿っていくのか?
それとも全然違う動きをしていくのか?
興味深いです。
以上です。
尚、この記事は筆者個人の考え方や推論に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、これはあくまで本稿掲載の時点で得られた情報に基づくものであり、
それ以後は状況が変わっていく可能性もあります。
さらに、そもそも株価はその企業の財務内容以外の様々な要因に
大きく影響される為、財務諸表からその企業が高く評価できたとしても
それで株価が上がるとは限りません。
また、ここでの高い評価は、投資を推奨するものではありません。
投資は自己責任でお願い致します。
これらの点を十分ご留意お願いします。