先日の自民党総裁選の最中、「次の日本の成長産業は?」との問いに
高市早苗候補は「産業用ロボット」と答えられました。
高市さんは自民党総裁には選ばれなかったが、党の政策を担う政調会長に就任されました。
... という訳で、産業用ロボット関連銘柄について纏めたいと思います。
(1) ロボットの種類(大分類):
国際ロボット連盟は、ロボットを「産業用ロボット」と「サービスロボット」の
2種類に分類しています。
「産業用ロボット」とは工場や倉庫など様々な産業の自動化の為に使われるロボットで、
主なものには自動車工場で使われている溶接ロボットや塗装ロボット、その他様々な
工場などで使われている組立ロボット、倉庫などで使われる仕分けロボットや
箱詰めロボットなどがあります。
「サービスロボット」とは人の様々な活動を支援する為に使われるロボットで、
介護ロボットや受付ロボット、お掃除ロボットなどが含まれます。
スターウォーズのC3POやR2D2、ソフトバンクのPepper、
世界で最も普及しているロボット(と思われる)ルンバ、などもサービスロボットです。
同じロボットも用途によって産業用ロボットに分類されたりサービスロボットに分類
されたりする場合があるので、注意が必要です。
(2) 産業用ロボットの特徴:
一般的に、工場を自動化する場合に最初に考えられるのは、そこの製品の製造、
仕分け、梱包が最も効率良く行われる様な「専用機」の導入です。
皆さんもコーラの工場でのボトリングとか、お菓子メーカーでの箱詰めとかの
映像で見た事があるのではないでしょうか。
しかし、専用機の場合、新製品の導入などで製品のサイズが少しでも変わったり
すると使えなくなり、設備の大掛かりな変更が必要になります。
しかし、これが専用機でなくロボットであれば、設備は変えずにプログラムや
ハンド(後述)を変えるだけで対応できたりします。
日本の自動車工場の様に一つのラインに複数のモデルを流す「混流ライン」も
ロボットだからこそ対応できるものです。
つまり:
①単一品種の大量生産でモデルチェンジの少ない製品; 専用機が最適
②超少量多品種、又は頻繁に仕様が変わる製品; 手作りが最適
③上記①と②の間; ロボットが最適
という感じです。
後述の通り、産業用ロボット業界では世界の中でも日本は最強です。
その理由の一つには上記の背景からアメリカでは①の大量生産の需要が大きく、
ロボットがあまり普及していない事もあると思われます。
(3) 産業用ロボットの日本の立ち位置:
下のグラフ(出典; 経産省 製造産業局 産業機械課 ロボット政策室の資料)の
黒い線が世界の産業用ロボットの年間出荷台数の推移、
赤い線がその中の日本製ロボットのシェアです。
日本製のシェアは1990年代には9割に達していました。
これが徐々に下がっていますが、現在でも過半数を占めています。
日本製のシェアが下がった要因の一つは、中国市場の急激な伸びです。
上の表の通り、中国での導入台数が急激に伸び、2017年時点で世界一位になっています。
並行して中国では雨後の筍の様にロボットメーカーが生まれました。
同様に、安川電機、ファナックなどの日本メーカーも中国での生産を増やしています。
これらの要因により日本製のシェアは下降してきたと思われます。
しかし心配には及びません。
①中国メーカーは技術力が弱く、製品の多くは単価の低い直行型や4軸スカラ(後述)。
→ 高機能/高額なロボットは日本が強い。
②ロボットの最重要基幹部品であるサーボモータと減速機とは圧倒的に日本製が強い。
→ たとえ日本製のロボットが売れなくても、日本の基幹部品は売れる。
まだまだ、日本は最強です。
(4) 産業用ロボットの構造:
産業用ロボットは以下3つの部分から成ります;
① 頭脳;「コントローラ」と呼ばれます。後述の「軸」を動かします。
② 腕; ロボットの本体部分で、「マニピュレータ」とか「アーム」とか呼ばれます。
人間の関節にあたる可動部分があり、これが「軸」とか「アキュムレータ」とか
呼ばれます。ロボットにより軸は3〜7個あり、各々に基幹部品であるサーボモータと
減速機が繋がっています。コントローラがサーボモータと減速機を動かして
関節を動かし、ロボットが動く訳です。
コントローラ、サーボモータ、減速機の3つが3大基幹部品で、これらのコストが
ロボットの価格を左右します。当然ながら軸が多いほど高額になるし、
軸が多ければコントローラも複雑な制御が求められ高額になります。
コントローラはロボットメーカー自身が作ってるケースが多いようです。
サーボモータはファナック/安川電機/三菱電機は自製ですが、他は他社から
買ってるケースが多いようです。
減速機は殆どが他社から購入しているようです。
③ 手; 腕の先で実際に物を掴む部分です。「ハンド」とか「グリッパー」とか
呼ばれます。掴む物によって異なる機構が求められ、物理的に掴むもの(把持ハンド)や
真空や磁力で吸着させるもの(吸着ハンド)、その両方を備えるものなど様々です。
指の部分は「チャック」などとも呼ばれます。
ロボットメーカー以外でハンドを専門に作っている所が多く、SIer(後述)が
特注で作るケースもあります。
上記3つが基本形で、これに追加機能品としてロボットの目にあたる「ビジョン」や
移動用の足(磁気バンドやレールなど決められたコースのみを動く「AGV」や
コースの設定無しに自分の判断で動く「AMR」)などが付いたりします。
(5) 産業用ロボットの種類:
産業用ロボットで普及しているのは以下の4タイプです。
(写真は蛇の目と安川電機のHPから拝借)
①直交型;
機構が単純で動きもシンプルですが、安いです。
② 水平多関節(略称; スカラ)
水平に動く軸と垂直に動く軸から成り、動きが速い。
コンベア上の製品をピックアップして箱に並べる、というような用途によく使われます。
③ パラレルリンク(ファナックは「ゲンコツ」と呼んでます)
スカラと同様の用途によく使われますが、軽い物専用でスピードはスカラより速い。
④ 垂直多関節;
複雑な動きが可能で、自動車工場の溶接ロボットとして普及。
人間の場合、背中の真ん中には手が届かなかったりしますが、垂直多関節ロボットなら
6軸あれば一定距離内の全ての場所に届きます。7軸あれば障害物の向こう側にも
届く様になります。
上記4つが基本的な産業用ロボット本体のタイプです。
応用形として、一つのボディに2本のスカラや垂直多関節型を付けた「双腕ロボット」や
人にぶつかる前に止まる、或いはぶつかっても痛くない様に工夫された「協働ロボット」
などがあります(普通の産業用ロボットは周りを柵で囲って人が入れない場所に設置
せねばなりませんが、協働ロボットは柵無しで人と一緒に働く事ができます)
(6) 産業用ロボットのビジネスの流れ:
産業用ロボットを購入しても、一般の企業がそのまま使う事はまず無理でしょう。
ロボットを適切に設置し、ロボットに適切な動きを教え込む「ティーチング」という
作業を行う技術者(業者)が必要です。これを「システムインテグレーター」
通称「SIer」と呼びます。
SIerを含んだ、産業用ロボットのビジネスの一般的な流れは以下の通りです;
① ユーザーが各サプライヤーから製品やサービスを個別に受領するケース。
自動車メーカーなど、技術力の高い企業がユーザーの場合に多いようです。
② ロボットメーカーがユーザーに対する窓口となり、ハンド/ビジョンなどの付属品や
SIerなどを取り纏めるケース。大口の客先向けに多いようです。
③ SIerが客先との契約主体となり、客先のニーズに合ったロボットや付属品を選んで
纏めて提供するケース。小口のユーザーの場合に多いようです。
(7) 産業用ロボット市場の今後:
産業用ロボットはまず自動車工場の溶接ロボットとして普及、そして主に重厚長大産業の
重い製品の移動の様な「人間では大変な作業」や、クリーンルームでの作業の様な
「人間より機械の方が都合がいい作業」などに波及していきました。
それが昨今は労働力不足への対応やコスト削減を目的として「人間でも十分やれる作業」
にも拡がってきています。
ロボット市場の裾野の拡がりに伴い、ユーザーもロボット使用に慣れた大企業などから
ロボット使用に慣れてない中小企業などに拡がりつつあります。
そうした動きに伴い、上記(6)の取引図で言うと、当初は①が多く、徐々に②が増え、
そして更に③が増えてきているようです。
即ち、③の要であるSIerの重要性がどんどん増してきているようです。
世界中での産業用ロボットの導入台数推移は以下の通りで、2018年までは順調に
増加しましたが、2019年は米中摩擦、2020年はコロナ禍により停滞した模様です。
しかし、コロナが収束すれば市場は拡大基調に戻ると見られています。
(8) 産業用ロボット関連銘柄:
以下に分類してみました。
複数の分類にまたがっている企業もありますが、そんな企業は中心となる業務を
私に独断と偏見で選び、その分類に入れています。
漏れている企業や記載ミスなどもあるかと思いますが、その点はご容赦下さい。
株価、時価総額、PER、利回りは2021年10月22日終値ベース、
売上成長率は直近の通期決算実績の4年前からの年平均成長率、
営業利益率は直近の通期決算実績で営業利益が開示されてない銘柄(三菱重工など)は
営業利益率に代えて経常利益率を記載しています。
① 汎用性の高い産業用ロボット本体を取り扱ってる企業;
ファナックと安川電気が世界4大メーカーの中に食い込んでいます。
(他の2社は海外メーカーのABBとKuka)
② 特定の用途に特化した産業用ロボットを取り扱っている企業;
搬送ロボット、溶接ロボットなどが多いようです。
そもそもは自社の工場で使う為にロボットを開発し、それを商品化して外部にも
売り出した、という所が多いようです。
尚、「搬送ロボット」には2種類の全く異なる種類のロボットを意味する事が
ありますが、ここでは、生産ラインの中で一つの機械から製品を取り出して次の
機械に入れる作業を行うロボットを指します。半導体工場などで多く使われています。
(もう1種類は工場内を動いて物を運ぶAGV/AMRなどですが、ここでは割愛します)
③ ロボット部品メーカー;
基幹部品であるサーボモータは安川電機、三菱電機、ファナックの3社が、
海外メーカーのSiemensと並んで世界4強の一画を占めていますが、ここでは
①のリストに含めています。
同じく基幹部品である減速機はナブテスコとハーモニックドライブとで
世界市場の3/4を占めています。
④ ハンド/ビジョンなど付属品メーカー;
ロボット本体やサーボモータ、減速機などの基幹部品は少数のメーカーが大きな
シェアを持つ寡占状態ですが、ハンドやビジョンなどは非上場企業も含め
多数の企業が乱立する群雄割拠状態です。上場企業で目につくのは以下の通り。
⑤ システムインテグレーター(SIer);
SIerも非上場も含め無数にありますが、上場企業で目に付いたものは以下の通りです。
尚、技術商社などでSIerの機能を持っているかどうか判断が難しかったところも
ありましたが、多分持っていると思いここに含めました。
以上です。
尚、これは投資推奨ではありません。
「産業用ロボット関連」に投資するか、その場合、どの分野のどの銘柄を選ぶか、
それは各々の投資家の判断次第です。
もし投資をお考えの際には、スクリーニングの際に上記情報も参考にして頂ければと思います。
但し、上記には誤記や勘違いなどがあるかもしれないので、実際に投資される際は上記を
鵜呑みにすることなくご自分で検証をし、自己責任で投資される様にお願いします。
皆様に爆益あれ!
PS この機会にお掃除ロボットを買ってみようという方がおられれば、以下をどうぞ↓