『物語のつづき』
ボクを乗せた車椅子は廊下を進み、エレベーター側に右折する。
手術室は同じ階にある為、両側にあるエレベーターを素通りし直進
していく。
この辺りから、空気が変わっていくのを肌で感じた。
「緊張しますねぇ。」
看護師が車椅子を押しながら、声をかける。
「はい。でも、まだそこまで緊張していないんですよねぇ。」
「実感がまだ湧かないっていうか・・・」
「多分、手術室に入ったら一気に緊張し始めると思いますよ。」
「あぁ~分かります。手術室って雰囲気独特ですからね。」
「そうでしょうねぇ~。」
「あれっ?・・・前は手術しませんでしたっけ?」
まるで、今迄見た事が無い様なボクの返答に、疑問を感じた
看護師が問いかける。
「前は、もう意識なくて、気付いたら集中治療室にいたんですよね。
今みたいに、入室からって初めてなんで、これから見る風景は全部
初めてなんですよ。」
「そっかぁ~。」
廊下は、突き当たり左右に分かれる。
「じゃぁ、ご家族の方はここまでで、『家族待合室』でお待ち下さい。」
「荷物預かりますね。」
おやじが持っていた紙袋を、看護師が受け取る。
「じゃ、行って来るね。」
「頑張ってな。」
お互いに軽く笑顔で交わす。
「じゃぁ行きますね?失礼します。」
看護師は、おやじに一礼すると左へと進んでいった。
見送るおやじの顔は、笑顔でも作っていた。
進んでも人通りは全く無く、気のせいか空気が重い。
しばらくして、スチールの枠に縁取られた擦りガラスが見えてきた。
近づくと、廊下の幅よりも広く拓けたホールに、左右の壁から壁まで
ある重厚感漂う擦りガラスの両開き自動ドア上部に、『中央手術室』と
表示されている。
その自動ドアの圧倒的な存在感に、目を奪われた。
そして、自動ドアが開き中へと入っていく。