『物語のつづき』



午後9時の消灯時間になり、部屋の灯りが消される。


もちろんTVも消さなきゃいけない。


ただ、この時間から元気になる患者さんが2人居て、彼らのお陰で寝不足の日々が続いていた。



1人は、廊下を斜めに挟んだ個室に入っている患者さん。

彼は、病気とは別に痴呆症を抱えていて、毎日奥さんが面会に来ていた。


夕方奥さんが家に帰ると、看護師が世話役にも回る。

ナースコールを押す事を覚えていないのか、家に居る感覚なのか、『お~い。』と最初は小さく誰かを呼ぶ。

それが次第に大きくなっていき、フロア全体に響き渡る位の大きな声で連続して呼び叫ぶ。


看護師が部屋へ行けば『ビール。』と言われたりで、彼女たちも頭を悩ませていた。


そして何度も『そんな大きな声出すと、みんなビックリしちゃうからダメだよ。』と、その都度言ってきたりしているが、変わる事はない。



消灯で暗くなると、寂しくなるのか頻繁に誰かを呼んだり、壁をドンドン叩いてアピールする。



部屋が近いだけに、響く声と音が大きく耳障りでストレスになった。



もう1人は、同室の患者さんだ。


最初にボクが来た時に居た向かいの方が退院し、入れ替わりで入って来た方が、とても難聴で耳が遠い。

その為、イヤホンを付けてラジオやTVを聴くんだけど、半端じゃなくボリュームが大きく、離れているボクでも漏れてきた音や声がはっきりと分かる。

昼間は他にも音が混ざっているから、さほど気にはならないし、その方も寝てるから大丈夫。

それが、夕方位から彼の活動が活発になり、消灯時間になってから枕灯を点け、ガサゴソ新聞を見出し、これから見ようとする番組を選び、ボリュームは大きなままTVを観始める。

消灯で部屋が暗く静かな分、余計漏れる灯りと音が騒がしく眠れない。



ナースコールで看護師を呼び相談をした。



『ごめんなさいね。言いますね。』



看護師は一旦部屋を出て、一息置いてから再び入ってきて、注意と言うよりお願いしてくれた。


「消灯過ぎてますよぉ。大部屋なんで、みんな眠れないから消して下さいね。」


「はあ?…あぁ。」



TVは消したが、看護師が帰った後ぐだぐた文句を呟いていた。



他の同室の患者さんたちも多少耳が遠く、ボクだけが反応していた様だ。


その後も行動は変わらず、毎日消灯の度に看護師が監視に来てお願いしていた。


看護師長が、ボクに部屋を変わるか聞きに来たけど、何故決められたルール通りにしているボクが部屋を出て、モラルやルールを乱してる方が擁護されるのか納得できずに断わった。

この判断には、とても残念だった。



最終的に向かいの患者さんが部屋を移る事になるが、この2人には悩まされた。