ボクは、深く息を吸い大きく吐く。
集中治療室の重たい空気とは違い、窓から空が見えているせいか、
とても軽く感じる。
復帰への第一歩を踏み出し、ここからどんどん良くなって行くんだって
そう思った。
でも、その期待は大きく裏切られる事になる。
おやじが、売店から帰ってきた。
鍵に付いてるお守りの鈴の音で、すぐに『おやじ』と分かる。
「買ってきたぞぉ。」
袋から、ペットボトルの冷たいお茶を3本と歯磨きセットを取り出し、
TV台に置いた。
「ありがと。そんな要らんのに。」
「置いておけばいいだろ?冷蔵庫もついてるし。」
「でも、こっちへ移ってもう安心だし、家に帰るわ。」
「また明日、おっ母連れて来るから。アイツここへ来れんから
心配ばかりしとってうるさいで。」
おやじらしい言い方だ。半分口が笑ってる。
「何か、居る物あったら持って来るけど。」
「あっ、オレの財布や携帯ってどこにあるの?」
「家に持って行ったよ。看護師さんが貴重品は持ってって下さいって
言ってたから。」
「そっかぁ・・・じゃぁ、それと・・・TVに付けるイヤホンが欲しい。」
「わかった。じゃぁまた明日くるわ。」
「うん、ありがとうね。」
おやじは、小さく鈴の音を残しながら出て行った。
少しして、向かいさんがやってきた。
「さっきはどうも。」
「あぁ・・・はい。」
ボクは身体をゆっくり起こし、壁に背をもたれかける。
「お若いのに、大変だねぇ。どうしたの?」
「心臓から出てる血管が詰まってしまったみたいです。」
「そうですかぁ・・・僕もね、仕事でこっちへ来てたんですけどねぇ、
心筋梗塞で救急車で運ばれましたわ。まぁ、お互い頑張りましょうね。」
「そうですね。ありがとうございます。」
どうやら、この階は循環器系の病気の方たちばかりみたいだ。