扉が開くと、今まで感じなかった光、音、匂いがボクを迎える。
天井しか見る事ができないボクだったが、流れる景色がとても
心地良く、暖かい風も肌をかすめ気持ちを安らげる。
ベッドは進み、デイルームを横切り病棟へ入る。
病棟へ入ると、すぐにナースステーションが構えてあり、
そこを通り過ぎて左へ角を曲がる。
この病棟は、三角形の形をしていて、三角形の中央にナースステーション
があり、それを囲むように病室が設置されている。
大部屋が7部屋、個室が5部屋、特別室が1部屋の振り分けに
なっていて、もちろんボクは大部屋だ。
角を曲がって進み、312号室に入って行く。
そして、4人部屋の窓側がこれからのボクの居住空間になる。
「岡田さん。着きましたよ。」
そう言いながら、看護師はベッドを固定したり、点滴の位置を決めたり
酸素をセットしたりと慌しかった。
「じゃぁ、ちょっと説明しますね。」
と、部屋の備品関係の説明があり、ボクの行動範囲の説明もされる。
「岡田さんは、ベッド上だけしか動けないんで、何かしたい時があれば
ナースコールして下さいね。」
「トイレもベッド上でしてもらって、毎回計量しなくちゃいけないから出たら
ナースコールして下さいね。」
「あとで、尿瓶もってきますからね。」
「わかりました。」
「そしたら、心電図付けさせてもらいますね。これは、24時間付けてて
岡田さんを監視する物で、異常が出たらすぐナースセンターで分かる
様になってるんですよ。」
タバコ一箱位の大きさの器械から3色のコードが出ていて、先端に丸い
シールが付いている。
そのシールは、コードの先端がボタンになってる為付け替えが出来る。
そのシールをボクの左胸、対角線上の右脇、最後に左脇に貼り、器械は
ボクの横に置かれた。
「はい。OK~。 じゃ、何かあったらナースコールしてくださいね。」
「あっ、看護師さん。向かいの人挨拶したいんですけど、いいですか?」
「ちょっと待ってくださいね。」
看護師は、向かいさんに話しに行ってくれた。
ボクと同部屋はその人だけで、しばらく一緒になるから挨拶だけでも
したかった。
そして、ベッドを仕切るカーテンが開き向かいさんが顔を出す。
60歳近い、優しい感じの男性だった。
ボクもベッドを上げてもらい、精一杯の声で挨拶をする。
「今日から、しばらく一緒になります。お願いします。」
「あぁ~、こちらこそ丁寧にどうも。お願いしますね。」
それだけの、短い挨拶だった。
看護師は部屋を出て、おやじはボクの荷物をTV台の棚や、引き出しに
収めてる。
「おやじ、あとで冷たいお茶買ってきてくれる?」
「おぉ、今から行って来るわ。」
おやじは、売店へと歩いていった。