ボクは、眠りに入る扉を開け閉めしてるだけで、眠りの中へ


入ることはなく、漂っていた。




朝食の時間になり、看護師から声が掛かるが断る。




ただ、今は身体を動かしたくない。


苦しさが和らぐまで、ジッとしていたいと思った。




途中、外科医が来て人工心肺を付けていた部分を縫合をした、


傷の様子を見に来たり、看護師が、顔を拭きに来てくれたりして


時間が過ぎていった。







少しずつ、痛みも苦しさも和らいでいき、気持ちも穏やかになってきた。







落ち着き始めた頃、大きな台を押しながら看護師が部屋に入ってくる。




「岡田さ~ん。お待たせ。TVが空いたんで、持ってきたよ。」




そう言うと、ボクの近くまで台を押してきて、配線をつなぐ。


そして、リモコンをボクに渡し「はいどうぞ。」と微笑む。




この数日間、メディアからの情報は、当たり前だけどひとつも


入って来ず、世間が何か変わっているのか興味が湧く。




早速、スイッチを押し電源をいれる。




新聞や雑誌が無いから、何の番組をやっているのかよく分からない。




順番にチャンネルを変えて行くが、テンポの速さに脳が付いて行けず


目が回ってくる。







まだ、脳もリハビリが必要だ。







チャンネルを変えてる中で、ひとつの番組に惹きつけられた。




イルカの調教師のドキュメンタリー番組だ。




愛知県の南知多町に、「南知多ビーチランド」という体験型水族館が


あり、そこで行われるイルカショーを演出する新人女性調教師を追った


ドキュメンタリーで、何故か強く惹きつけられた。







人とイルカの信頼関係があってこそ、初めて成り立つ演技でありショー。




そこには多くの観客が居て、みんなの笑顔と歓声が溢れている。




それを壊しちゃいけないと、今まで何度もトライし一度も成功したことの


ない、大ジャンプに取り組む。




調教師が伸ばした足を、イルカが鼻先で押しながら勢いよく潜り、


方向を水面に向け勢いよく飛び出しジャンプ、そしてその勢いで


調教師も飛び出しジャンプ。




これが、水面から4m程の高さまでの達するらしく、その高さが


調教師を怖がらせてるんだ。


ひとつでもタイミングがずれれば、ジャンプをできないし形も崩れ


綺麗に見せることが出来ない。




何度もチャレンジするが、怖さで身体がすくみ一度も成功できず


悔し涙が調教師から流れる。




それを観て、ボクも涙腺が緩む。


今まで、TVや映画を観て感動しても涙が出ることなんて無かったのに


不思議だ。


誰かに見られたら恥ずかしいから、流れ落ちるのを我慢する。




調教師も怖さが原因なのは分かっていた。




そして、初めてのショーデビューの日。


観客は満員。


覚悟を決め、調教師は舞台へ出る。




ショーは順調に進み、そして、見せ場の大ジャンプへ挑む。


イルカの背に乗り、プール中央に行き足を伸ばす。


そこへイルカが来て一緒に潜る。


そして、向きを変え水面に向けて勢いよくジャンプ。


調教師もイルカの鼻先に押されてジャンプ。


綺麗に決まり、初めての成功。




ショーが終わり、インタビューで笑顔で今後の夢を話す調教師。




ボクは感動して、涙が溢れてきた。


心が洗われた気分だった。