お茶を飲む、呼吸をする、音が聞こえる、物が見える・・・。
当たり前の事が当たり前に出来ないもどかしさと、
その些細な事が出来た時の喜びは、ボクが生きている
と言う事を実感させ、幸せの意味を変えさせてくれた。
少しして、おやじが部屋に入って来るとボクを見て驚いた。
「どうしたんだ!」
おやじには、人工呼吸器が外れた事は伝わってなく、マスクに
変わってた為、何か状況が変わったのかと思ったらしい。
でも、近づいてきて状況が飲み込めたようだ。
「急に変わってたから、ビックリした。取れたんだな。
良かった良かった。」
そこで、初めて会話をする。
「ご飯食べてきた?」
「おぉ。近くにラ-メン屋があるから、いつもそこで食べとるよ。」
「よく繁盛しとって、昼に行ったら満員だ。」
「そっか。」
そこに看護師も加わり、おやじとどこの店がおいしいとか言っている。
今思えば、しょうもない内容の話だった。
すると看護師が、ボクに話しかける。
「何も無いから、退屈でしょ?たぶん、もうすぐTVが空くから
また持ってきますね。」
驚いた。
集中治療室なのにTVってあるんだ。
楽しみに待っていよう。
「さっきお茶飲んで、お腹は何とも無いです?」
「大丈夫です。」
「そう。じゃぁいいですね。」
何かを始めた時には、些細な事でも体調を確認する。
そして、それをカルテに記入し主治医に伝える。
おやじは、ボクの様子を見て安心した様で、相変わらずな
憎まれ口を叩く。
「する事ないし、もう帰るわ。」
「お前の顔ばかり見てても、しょうがないからな。」
ボクは軽くあしらう。
「はいはい。」
「また、明日くるわ。」
そう言い、おやじは部屋を出て行った。