「悔いなし。遺産なし」
死ぬときに
「やりたいことは、まあ、だいたいやれたかな」と思えるのが理想。
これが「悔いなし」。
「遺産なし」は、やりたいことをやるためにはお金がかかります。
「子どもや孫に遺産を遺そう」などとは考えずに、やりたいことのために今あるお金を使ってしまおう、という意味です。
たとえば私の場合、やりたいことと言えば、旅をする、本を読む、美味しいものを食べる、会いたいときに会いたい人に会うといったイメージですが、旅に出るにもお金がかかるし、美味しものを食べるにもお金がかかる。
そうやって使っていたら、遺産は残せません。
それに、子どもや孫は自分とは別の人格です。彼らは彼らで自分の力で生きていけばそれでいいのです。
逆に「親のお金があるから」などと子どもに思わせてしまったら、その子どもの人生はロクなことにならないと思います。
だから、自分が生きているあいだに、
悔いなく生きるために、お金は目一杯使う。
それが一番いい人生。
それが私のお金に対する考え方です。
一方で、私とは正反対に、お金を貯めるのが好きな人もいます。
その人が心の底から「貯めるのが大好き」と思うのだったら、それはそれでいいと思います。人にはそれぞれの価値観がありますから。
ただ、もし、「将来がなんとなく不安で……」といった気持ちから、やりたいことがあり、それにお金を使いたいのを我慢して貯めているのだったら、お金とのつき合い方を今一度、見直してみたほうがいいかもしれません。
ご自身にとって、本当に幸せなお金とのつき合い方とは、どのような形なのか。
将来が不安だからと必死になって貯めて、仮に3000万円ぐらいの貯金ができたとしても、それで80歳くらいまではなんとかなりますが、100歳まで生きたらそれでは足りません。
結局、老後のためのお金は、いくら貯めても安心はなかなか得られないのです。
そのためにやりたいことも我慢して……では、せっかくの人生がもったいなさすぎると思いませんか。
お金は使わなければ、ただの紙切れ
貯蓄について述べれば、現在の日本には、「貯蓄好き」の人が少なくありませんが、昔からそうだったわけではありません。江戸時代の豪商などは、よく豪遊をしていました。
あるいは、「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」ということわざがあるように、金離れのよさがカッコよさの1つの基準とされていました。
今の「貯蓄好き」がはじまったのは、
「1940年体制」(野口悠起雄先生の造語)の賜物だと私は考えています。
日本は第二次世界大戦で国土が焼け野原になり、社会も経済も壊滅状態になりました。その復興のためには、まずお金が必要です。
そのとき政府が考えたのが、「郵便貯金」や「銀行預金」「生命保険」などという形で、ひたすら市民のタンス預金からお金を吸い上げるという方法。
そうして集めたお金を国家が一元管理して、電力や鉄鋼などに投資し、国を復興していこうというグランドデザインを考えたのでます。
そのために、この時代は、貯蓄がとても優遇されました。
たとえば、郵便貯金には、「300万円までは利子が非課税」という「マル優」制度がありました。
こうした税制優遇措置によって、日本人は自分たちのお金を喜んで金融機関に預けていった。
その結果、世の中のお金の流れは、見事、政府の思惑通りに進んだのです。
こうした時代背景がわかると、貯蓄に対する見方もかなり変わってくるのではないでしょうか。
今や1940年体制はすでに過去のもの。
貯蓄にもかつてのような優遇措置はなくなりました。時代は変わったのです。
お金は使ってこそ、価値があるのです。
使わずに貯めているだけなら、単なる紙切れにすぎません。
さらに、お金には、「使ってはじめて増えていく」という側面もあります。
たとえば、営業職の人を見ると、たくさん稼いでいる人は、たいていたくさん先行投資をしています。
100万円を稼ごうと思ったら、先に100万円を使う。もちろん、これは投資なので、投資した分が必ず返ってくるわけではありません。
一方で、投資をしなければ、そもそも何も返ってきません。
つまり、使わなければ、お金は増えないのです。
この法則は、人間の心理から考えると、ごく当たり前であることが納得できます。
たとえば、相手に何かしてもらったら、こちらも何かお礼をしようと思うでしょう。その人がパーティをするのだったら、「シャンパンを持って行こう」などと考えます。
逆に、何もしてもらっていなければ、そのパーティの会費だけを払って終わりとなりがちです。
これが人間の自然な感情です。
営業のプロはそのことがわかっているのです。
そしてもう1つ、この法則を裏づける人間心理があります。
それは、
「使ったら、元を取ろう」という心理。
たとえば、アメリカの大学生は日本人よりもはるかに必死に勉強すると言われています。
理由は明白です。
彼らのほとんどは借金して学校に通っているからです。借金を返済するためには、学校でいい成績を取って、給料のいい企業へ入る必要がある。
そして早く借金を返済しよう。
そういう発想、インセンティブがあるから、彼らは必死に勉強するのです。
これも1つの先行投資の方法です。
知識の習得において、「経験」を非常に重視したベーコン(1561〜1626。「イギリスの経験論の祖」と言われる)がいいことを言っています。
「お金は肥料のようなもの」と。
そして、
「ばらまかなければ役に立たない」。
もしあなたがお金を使うのが苦手だったら、ベーコンに習って「肥料」と思ったらいいのではないでしょうか。
そのお金が養分となって、あなたにとって大切な何かがスクスクと育っていく。
そう考えると、お金を使うのがきっと楽しくなるはずです。