世の中には、周りが驚くほど、発想豊かな人がいます。
豊かな発想の源はいったい何か。
それは持って生まれた「才能」というよりも、その人が持つ膨大な知識の量なのではないかと考えています。
つまり、インプット次第で、人は誰でもアイデアの達人になれるのです。
昔、音楽家の坂本龍一さんが、機内誌のインタビューでとても興味深いことをおっしゃっていました。
世界で活躍する坂本さんを私たちは「音楽に非凡な才能を持つ人」と見ますが、ご自身いわく、そのような才能は自分にはないのだ、と。
あるとすれば、それは子どものころからインプットしてきた膨大な音楽の記憶。
それらを引き出し、組み合わせながら音楽をつくっているだけだというのです。
坂本さんのお父様は有名な編集者・坂本一亀さん。仕事では非常に「怖い人」として知られていたそうですが、お子さまにはやさしかったようで、息子さんがほしいと言えば、何枚でもレコードを買ってきてくれたそうです。
そのおかげで、坂本さんは子どものころから音楽にどっぷり浸かった生活ができたのだとか。つまり、ものすごい量の音楽をインプットしていった。
その記憶が、その後の坂本さんの音楽の材料となっているというわけです。
ということは、お父様が坂本さんにレコードを与えていなければ「音楽家・坂本龍一」は生まれなかったかもしれない。
この記事を読んだとき、アイデアや発想においても、知識(情報)の蓄積こそがすべてだとあらためて再認識しました。
アイデアや発想を豊かにしようと思ったら、知識をどんどんインプットしていくに限る。
そもそも、まったくゼロから生み出されたアイデアは、人類の長い歴史を見渡してもほとんど存在しないのではないでしょうか。
その前に存在したアイデアを組み合わせたり、あるいは、自分たちの時代に合わせた形に焼き直したりして、「斬新なアイデア」が生み出されていく。
アイデアの蓄積の中からアイデアが生み出されていくのです。
だからこそ、「知る」という行為が大切です。
何も知らなければ、人間の頭の中は空っぽです。ゼロの状態。
知識は言ってみれば、材料です。
材料がなければ料理ができないように、人間も知識がなければきちんとした思考はできません。
思考ができなければアイデアも生まれてくるはずがないのです。
14世紀のイスラム社会に、イブン・ハルドゥーン(1332〜1406)という歴史家がいました。
彼は、当時、北アフリカやスペインの地に存在していたいくつかのイスラム系の王朝を渡り歩き、さまざまな官職を歴任した政治家でもありました。
その彼が記した著書に『歴史序説』があります。
その本の中に「人間は本質的に無知で、獲得という手段を通じて知識を得る」
という一文があります。
つまり、「獲得=知る」という能動的な行動をしなければ、人は知識を持ち、そして増やしていくことはできないというのです。「知る」とは、「学ぶ」と言い換えてもいいでしょう。
いくつになっても発想豊かな人間であり続けるためには、一生、学び続け、知識をインプットし続けることが不可欠なのです。
知識をどうインプットするかは、人それぞれでいろいろな方法があると思います。
源泉は人、本、旅の3つで、たくさんの人に会う、たくさんの本を読む、たくさん現場へ出かけていくことに尽きるのですが、私が心がけているのは、「縦から横から」ということ。
縦は時間軸、歴史軸です。
横は空間軸、世界軸です。
この両者を意識してインプットすると、物事の全体像を明確につかんでいけるようになります。
これを私は「縦横思考」と名づけています。
「縦」とは、「過去」から学ぶことです。昔の人はどのようなことを考え、どのような生き方をしていたのか。
それを知り、そこからさまざまなことを学んでいくのです。
とはいっても、「昔の人」はすでに死んでしまっているので、直接に話を聞くことはできません。ですから、本で学ぶ。
「昔の人」が書いた本、つまり、「古典」を読んだり、「昔の人」について書いた本、つまり「歴史の本」を読んだりする。そうすることで、彼らの考え方や生き方などを知ることができます。
「横」というのは、「現在」という時間軸において、自分と異なる環境にいる人やモノから学ぶこと。
たとえば、自分とは異なる環境に生きている人の話を聞いたり、本を読んだり、旅をしたりする、などです。
1つのテーマに対して、海外ではどう扱われているのか、日本国内でも別の地域ではどうなのか、同業他社ではどうなのか、異業種ではどうなのかと、横軸で比較してみると、さまざまな発見が得られます。