噺家が主人公、あるいは重要な人物として登場する小説はいくつかありますので簡単に紹介しますと。
やはり三遊亭圓朝が一番多く書かれており、長谷川幸延「寄席行燈」に始まり、山田風太郎「警視庁草紙」、辻原登「円朝芝居噺 夫婦幽霊」、浦山明俊「噺家侍―円朝捕物咄」、松井今朝子「円朝の女」、稲葉稔「圓朝語り」、和田はつ子「円朝なぞ解きばなし」、奥山景布子「圓朝」、このあたりが伝記もの以外で圓朝が登場する作品だと思います。
その他、彦六の正蔵が謎解き探偵として名推理を発揮する、愛川晶「昭和稲荷町らくご探偵シリーズ」や同じ愛川晶で五代春風亭柳朝が寝たきりの病院のベッドで推理する「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」があります。
また上方では、六代笑福亭松鶴がモデルとなった笑酔亭梅寿が登場する田中啓文「笑酔亭梅寿謎解噺シリーズ」ですね。
今回は四代橘家圓喬が主人公あるいは重要人物となった小説2編を紹介いたします。
どちらもネットで検索しても恐らくヒットしないであろう絶滅作品ですので、少々詳しくあらすじを書きたいと思います。
まずは、第32回オール讀物推理小説新人賞受賞作、小松光宏作「すべて売り物」からです。
この小説は、掲載時の梗概では、
架空の噺家、三遊亭春朝の目を通して喉をつぶされる陰謀(?)を知った圓朝が如何にその難を逃れ意趣返しをするか? というのがこの作品の眼目です。掲載時22ページの短編推理小説(決して謎解きではないと思います)です。この作品に四代橘家圓喬が重要人物として登場します。
この作品は1998年に他の回(30~35)の受賞作とともに「甘美なる復讐」と題され文庫本化されましたが、現在は絶版ですし、掲載誌を手に入れるもの困難ですので、推理小説の紹介にあるまじき行為ですが、結末までのあらすじを書きます。「俺はどんなことをしても手に入れて読むぞ!」という方は、次回、タイトルにネタバレ注意! と書きますのでお読みになりませぬように……。
オール読み物掲載と文庫アンソロジー