NHKのBSドラマ「舟を編む 〜私、辞書つくります~」最終回を見終え、人情噺の秀作との認識を深めました。原作や映画と少し違えて、いわばもう一艘の舟という作品ですが、全10話の連続ドラマとしてはこれが正解な気がしてます。きっちり言葉の伏線も回収しているし……。
 落語でいうと『浜野矩随』や『宗珉の滝』の名工物を群像にし、『文七元結』の善人たちの葛藤をまぶしまして、サゲもついた感じです。この作品に「うひょっぐ」!

 あたくしは紙の辞書は一冊も所持していなく、すべてPCに入っております。国語辞書をざっと言い立てますと……。

  • 広辞苑 第四版~第七版
  • 大辞林 第二版、第四版
  • 明鏡国語辞典 第三版
  • 新明解国語辞典 第五版、第八版
  • 岩波国語辞典 第六版、第七版
  • 日本国語大辞典
  • ハイブリッド新辞林
  • 大辞泉
  • 学研国語大辞典
  • 現代国語辞典

 このほかにも漢字辞典やら俳句辞典、四字熟語辞典、類語辞典、人名辞典、古今文字鏡、字通、大書源や百科事典などがあり、もちろん外国語辞典も複数入っております。これらは何も好き好んで収集したわけではなく、パソコンを使っている間に自然とたまってしまった物です。
 これらの辞書からふさわしい語釈を摘まんでブログの参考にしたりしております。試しに「落語」の語釈を広辞苑第六版で拾いますと、

 

らく‐ご【落語】
(初めオトシバナシと読み、明治中期より一般にラクゴと読む)一人の演者が滑稽な話を登場人物の会話のやりとりを主として進め、その末尾に落(おち)をつけて聴衆を興がらせる寄席芸能。江戸初期に安楽庵策伝が大名などに滑稽談を聞かせたのが初めといい、身振り入りの仕方咄(しかたばなし)から発達して芸能化し、江戸・大坂を中心に興隆。上方を中心に「軽口(かるくち)」「軽口ばなし」と呼ばれ、江戸中期より「落し咄」と呼ばれた。はなし。→烏亭焉馬(うていえんば) →三笑亭可楽。

→らくご‐か【落語家】

広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店

 

 とあります。落語のお詳しい方は違和感を覚えますよね。そうなんです、人情噺などが抜けているのです。これが明鏡国語辞典になると、

 

らく‐ご【落語】〘名〙
寄席演芸の一つ。一人の演者が滑稽こっけいを主とした話を身振りをまじえて語り、末尾に落ちをつけてまとめる話芸。広義には人情噺ばなし・芝居噺・怪談噺・音曲噺などを含む。おとしばなし。◇江戸初期に『醒睡笑せいすいしょう』を著した安楽庵策伝あんらくあんさくでん(一五五四~一六四二)が大名などに笑話を聞かせたのが始まりとされる。

明鏡国語辞典 (C) Taishukan, 2002-2008

 

 と、人情噺・芝居噺・怪談噺・音曲噺を載せてくれてます。
 あたくしが持っている辞書でこれら人情噺などに言及した「落語」の語釈があるのは、 この明鏡国語辞典と大辞泉の二つだけです。もちろん百科事典には「この純粋な話芸の形式、演出に変化が生まれ、芝居噺、音曲(おんぎょく)噺、怪談噺、人情噺、三題噺などが出現したが、これらには落ち(サゲ)のないものも多い」ときちんと書かれてあります。
 これら語釈も今後は徐々に、「落とし噺」以外にも「人情噺」などに言及されてゆくのでしょうね。

 大辞林に語釈のある噺家(落語家)がどれくらいあるのか探ってみましょう。辞書には物故者しか載せないという原則があります。存命者を載せると不祥事などがあった時に大慌てしてしまうからです。最近の例では、辞書ではありませんが、大谷選手の通訳だった水原一平被疑者を教科書に載せ、大慌てという出版社もあったようですね。もちろん例外はあり、特に外国人などは存命でも載ることがあります。(例:大辞林のトランプ〖Donald Trump〗など)
 では辞書の中の噺家を見てみましょう。

  • 三遊亭
    円朝 初代(大辞林では初世)
    円生 初代(世)と六代(世)
  • 古今亭
    志ん生 初代と五代(なぜか世ではなく代としてます)
    志ん朝 三代
  • 三笑亭
    可楽 初代のみ

  • 春団治 初代のみ
    文枝 初代のみ
    文治 初代のみ
    文楽 八代(黒門町)のみ
  • 柳家
    金語楼(有崎勉)
    小さん 三代のみ
    三亀松 三味線漫談
  • 立川
    焉馬(烏亭焉馬)初代のみ
    談志 松岡克由のみ
  • 林屋・林家
    正蔵 初代のみ
    正楽(一柳金次郎)江戸初代のみ
    トミ(上方の下座)

 ざっとこんなところでしょうか。立川談志があるのに五代小さんがないとか、林家正楽があっても彦六の正蔵がないなど、ずいぶんバランスが悪いようにも感じますが、このへんは辞書によってまちまちです。桂三木助(二代、三代)がある辞書もあれば三遊亭圓朝がない辞書もありますし、立花家橘之助がある辞書もあります。しかし、百科事典を除いて「四代橘家圓喬」が無いのはなんとも寂しいですね。昔の辞書にはもちろんありました。

大辞典17巻1936年(昭和11年)
 あったけど……三世になっているし、没が大正元年ではなく、大正十五年になってるし。(T_T)