刀屋の主人から「惚れた娘の婚礼を聞いてその男は影ながら喜びましたか」と問われ、徳三郎は「ナニ、喜びません。だって酷うございます。一言も断らないというのはあまり酷うございましょう。それだから婚礼の席へ暴れ込んで、婿も娘も殺して、自分も死のうとこう言うんで」と気持ちを白状してしまいます。ここから刀屋の主人が徳三郎を説得するのですが、柳枝のものよりも詳細な内容となっていて圓喬の工夫が見られます。少々長くなりますがサゲまで掲載いたします。
前回、圓生はこの速記を読んでいないと書きましたが、圓生全集『刀屋』にこの工夫が生かされております。圓喬から回り回って圓生に継がれたようです。
圓喬の速記であえて触れなかったマクラがあります。圓喬が捨てた妻子にも関係することなので、次回はコラムとしてその話をいたします。
文芸倶楽部掲載時の挿絵 片山春帆 畫