ふぐ食うてわかるゝ人の孤影かな  飯田蛇笏


フグは容姿からいって豚の字をあてたのは、

なんとなく分かる気もしますが、

なぜ頭に河をもってきたのでしょうか。


中国では河豚の一種メフグが

中国大陸の河川に棲息しており、

「河豚」の漢字が生まれ、日本に伝来したのでないか。(末広恭雄)


『揚子江に於けるフグの名産地は、

川口より100浬にある常陰沙という所だそうである…

4月頃が盛期「春甚だ珍とする』

「魚の博物辞典 末広恭雄 講談社学術文庫」 

と紹介されています。


その他に種々様々の字をあてていました。

鯸(フクト)…毛吹草(松江重頼 寛永15年 1638年)

河豚魚(フクトウ)…糸屑(轍士 元禄7年 1694年

鯸鮧(コウイ)…」改正月令博物筌(洞齋 文化5年 1808年)

「角川俳句大歳時記 角川書店」


『布久(フク)と訓ず。河豚、豚はいふ心味美なり…

背の上に虎斑あるもあるものを呼び手

虎鯸(トロフグ)といひ最も毒あり。ゆゑにこれを食わず』

(本朝食鑑人見必大 元禄10年 1697年)


河豚の語源は腹が脹れているところからとする説が

多く見られます。

『和訓義解に云、布久は、ふくるるの略なり。

この魚、これを犯す時怒る。

怒る時は腹ふくるるの義なり』(其諺 正徳3年 1713年)


『河豚は豕の味ひに似たるゆゑ名ずく。

物に触れて怒り腹ふくるるゆゑ「ふぐ」といふ。

古名「フグタチ」の略なり』(改正月令博物筌)


その他に、

『シブク(渋)の義か』(和句解 松永貞徳 寛文2年 1662年)

『フド(斑」)の義』(言元俤 大石千引 文政13年 1830年)

『ブス(毒)』(和語私臆抄 本寂 宝暦年間 1751年)

「日本語源大辞典 前田 富祺 小学館」


外国語・アイヌ語起源説もあります。

『蝦夷ではフグをフッポという』和訓栞(谷川士清 安永6年 1777年)


『フクルは朝鮮語の転訛でその原語は豊の韓音だ』

(新井白石 享保2年1717年)

「衣食住語源辞典 吉田金彦  東京堂出版」


『あら何ともなやきのふはすぎてふくと汁』(芭蕉)


『鰒汁の我活きている寝覚めかな』(蕪村)


『五十にてふぐとの味を知る夜かな』(一茶)



『河豚は食いたし命は惜しし』(毛吹草)


『片棒をかつぐゆふべの河豚仲間』(柳多留1)


『鰒汁を食わぬたわけに食ふたわけ』(柳多留拾遺1)