橙のめでたくあるや餅の上 冬葉
樹にある物は冬に熟して黄色になり、
翌年の夏には再び緑に蘇るといわれる別名回青種。
代々に渡り実が続くところから
子孫繁栄につながり縁起の良い果実とされ
橙の語源とされていますが、
江戸時代の書物の多くは異なる説をとっています。
日本釈名(貝原益軒 元禄12年 1699年)は、
『へたに台が二つ重なっているところから台台の意』
名言通(服部宣 天保6年 1835年)もこの説です。
柴門和語類集(菅原泰翁 年代不詳)では、
『柚類の中ではことに大きいところから、大大の義』
(日本語源大辞典 前田富祺 小学館から
引用させて頂きました)
その他に大言海は、
『新果が実ると旧葉が落ちるところから、代々の意』
とあり、果実でなく葉としています。
『橙々は飾り要の打つところ』(万句合 宝暦7年)
『橙は年神様のせんきどこ』(万句合 宝暦10年)
橙は正月用の鏡餅・しめ飾りに欠かせませんが
俳句の季語は秋です。
俳諧歳時記栞草(嘉永4年 1851年)に、
『秋の部に載せたるは、黄塾するをいふなり。
正月の部に載せたるは、嘉祝に用ふるゆゑなり』
と江戸時代はふたつの季語として記しています。
現在は新年の部に橙飾るとして分けています。
橙の古名は安部太知波果(アベタチバナ)といいますが、
古事記に記されている田道間守が持ち帰った
非時香果(トキジクノカグノコノミ)が
橙でないかとする説もあります。
橙はそれほどに歴史は古く、
万葉集(天平宝字3年 759年)巻十七にも、
記載があります。
『霍公鳥(ホトトギス)は、
立夏の日に来鳴くこと必定す。
又起中の風土、橙橘のあること希なり』(3984)
本朝食鑑(人見必大 元禄10年 1697年)菓のぶに、
『実の皮は薄く、辛苦である。
皮を割けば煙を生じる。
気激し、微臭あり、香ばしくない。
果弁もまた酸苦で、味極めて悪く、
とても食べられない』 と散々です。
事実酸味が多く食用にはむきませんが、
果汁を搾ってポン酢として大いに利用され、
マーマレードにしても美味しいものです。
大和本草(貝原益軒 宝永6年 1709年)に、
『実のなかこを去り皮を用…
細に切り、豆油にて煮てつきたき、砂糖を加和し』
とあります。江戸版のマーマレードというところでしょうか。
その他に江戸では正月に、
十数本の紐の中の一本の紐に橙を結び
宝引きという遊びがありました。