むつの子の舌に崩れて下戸の酒  芳次郎


鯥はクロムツとアカムツがあります。

普通に鯥といえばクロムツをさし

アカムツはは別種です。


クロムツは黒褐色の鱗におおわれて、

目は大きく歯は鋭い魚です。


稚魚の時は内海の浅い所に住みますが、

本来は深海性の魚で、

成長にしたがって深海に移動する魚です。


魚の博物事典(末広恭雄 講談社学術文庫)では、

『相模湾ではムツの幼魚をオンシラズと呼ぶ。

親とあまりかけはなれた場所にすむため、


親を見捨てた不孝者-

オンシラズというらしい。


現代流行の親子の断絶を地で行った呼び名だが、

人間の自己本位の考え方があさましい』

と感傷気味に学者らしく書いています。


広辞苑では睦の呼び名として、

『仙台では伊達(ダテ)家が陸奥守(ムツノカミ)

であったので、遠慮してロクノウオという』

と語源のひとつとして紹介しています。


『むつに子をねろふ鼠のおそろしさ』(柳多留43)


『陸奥の子を鼠あぶなく引く所』(柳多留129)


人形浄瑠璃・歌舞伎狂言の加羅先代萩の中で、

仙台藩奉行の原田甲斐宗輔は

仁木弾正として登場し鼠に化けて、


亀千代(陸奥・ムツノコ)を毒殺しようとします。

そこからの出典です。


ムツノコは鱈子ほどポピュラーではありませんが

美味しいものです。


適当に包丁して裏返してざるに上げておき、

煮立った出汁の中へひとつずつ入れていきますと、

花が咲いてように成ります。


好みにより千切りの生姜を入れ

味は醤油を控え目にして

甘味に仕上げると良さが出るようです。