足を手のごとくに使ひ蓮根掘り 柏郎
蓮根の早掘りは九月より始まりますが、
ピークは十一月から十二月で、
この頃は丸々と肥えて肉厚で、
しゃきっとした歯ざわりが食欲をそそります。
お正月のお節にもよく使われます。
幾重にも穴が開いており
見通しが明るいとの縁起説です。
ハスの原産地は中国、エジプトと諸説ありますが、
一般的には東南アジアからオーストラリアにかけてです。
インドから中国へ渡り日本へは、
仏教伝来とともに五世紀頃
朝鮮より渡来したといわれます。
『日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 羨ましきこも』
古事記下巻雄略天皇の条に、
赤猪子が天皇へ返歌として歌っています。
天皇と交わした結婚の約束を反故にさた、
八十才の女性の嘆きです。
万葉集にも多く詠まれています。
『ひたかたの雨も降らぬかはちす葉に
たまれる水の玉に似たる見ゆ』(巻第16 3837)
この頃は鑑賞が主で古名は波知須(ハチス)。
花のあと果実の入っている花托が
蜂の巣に似ているからともいわれます。
蓮根も日本の造語とされます。
蓮根の多くは寺院の池に植えられていたためか
当初は精進料理のお平などに使われたようですが、
江戸のなると庶民も多く食べるようになります。
商品としての蓮根は連なる姿が命です。
『骨つぎを竹くしでする蓮の怪我』(柳多留142)
と不徳な商人もいますが、
『泥中のはちすほってる寒ひ事』(柳多留31)
の苦労を思うとあまり文句もいえません。
料理物語(寛永20年 1643年)の頃は、
『蓮 煮物、なます、菓子、ひやし物、波恵…』
とまだあまりぱっとしませんが、
江戸も後期になるとバラエティーになります。
『泥中のはちすぬかみそづけになり』(万句合 天明6年)
『三杯酢中に内藤榊原』(柳多留110)
『猪口の中仏の根太の胡麻よごし』(柳多留135)
と川柳の世界でも蓮根の句が読まれるようになります。