着きてすぐ海鞘もてなさる口涼しし 節子
海鞘を珍重する御仁も海鞘の姿を
知らない人は多いと思います。
拳大で赤橙色でその周りに多くのイボがあります。
その上に外側は革のように硬い皮におおわれています。
その形から海のパイナップルともいいますが、
とてもそんなロマンチックな生物ではありません。
東北地方から北海道に分布し
岩礁に着生して成長します。
貝と思う人がいますが、
どちらかといえば原始的な魚に近く、
ホヤ目尾索類の仲間でプランクトンを栄養源に
成長するとの事です。
雌雄同体で産卵は冬といわれていますが、
説明等はどうでもよい事で、
海鞘好きの人にはたまらない一品で
酒の肴にはぴったりです。
土佐日記(紀貫之 承平4年 934年)に、
『ほや(老海鼠)のつま(交)のいずし(胎貝鮨)
すしあわび(鮓鮑)をぞ、
こころにもあわぬはぎにあげてみせける』
と記されている程昔から食べられていました。
海鞘と貽貝を交ぜて作った鮨で、
海鞘は男根、貽貝、鮑は女陰にたとえた
当時の流行語との説もあり実際の所は
貫之が食べたのかはっきりしません。
江戸の中期までは食べられていたといいますが
鮮度を保つための加工方法や輸送に問題があり
話題性にとぼしかったのか
書物にはあまり記されていません。
近年郷土料理の人気とともに
復活して知られるようになった食材のひとつです。
三陸ではごく普通に食べられていたとみえ、
各地に伝わる家庭料理が多くあります。
『ホヤを食べたら水飲めろ』
という言い伝えがあるといいます。
辞典などでは中にある水が旨いから捨てるなとの意で、
強精剤にもよいとあります。
地元では海鞘を食べた後に冷水を口に含むと、
海鞘の香りと甘さがただよう(日本の食生活全集)意とありますが、
こちらの方が自然で分かりやすいと思います。
語源は大言海は、ホヤ(寄生=宿木)が
根をはるさまに似ているところからとあります。
その他に炎のように赤い色をしているからホヤ(火焼)、
中には強壮の薬として保夜でホヤという説もあります。
保夜説には少し抵抗がありますが、
俳句大歳時記(角川書店)は
季題の見出しに保夜の字をあてていますが、
参考にあげられている五句は
何れも海鞘でよまれています。