鮨つくる主婦宵闇の祭笛 友二
巻き鮨と海苔巻きは何処で区別するのか、
また同じなのか、ちょっと難しいところです。
広辞苑によれば、
巻き鮨は、『乾海苔や卵焼きなどで巻いたすし』
海苔巻は、『海苔で巻いた鮨または握り飯』 とあります。
名飯部類付録(享和2年 1802年)に、
『巻きずし浅草紫菜を板上に広げて、こけらすじの飯をしき、
加料はあわび、椎茸、ミツバ、メジソを用い堅く巻』
とあり、これによりますと、一枚巻の太巻です。
また守貞慢稿には、
『江戸で巻ずしは海苔巻といって干瓢のみを入れる』
とありますから、こちらは海苔二分の一枚の細巻です。
さしずめ関西では太巻、関東では細巻を好んだのでしょうか。
海苔巻を代表するひとつに、鮪を芯に巻いた鉄火巻がありますが、
これは明治の始めに流行したといいます。
鉄火場(賭博場)で手に鮨飯がつかないので食べやすく、
賽子を振るうのに都合がよく始まったといわれていますが、
これでは鮪でなくても良いわけです。
『おふくろ日課息子は鉄火なり』(江戸古川柳)
鉄火はかなり前から使われといます。
鉄火とは博打打ちの他に豪気をよそう無頼の徒とあり、
まともでないという意味合いが強いようです。
皇都午睡(西沢一鳳 嘉永5年 1852年)に、
『芝海老の身を煮て細きにし、
すしの上にのせるを鉄火鮨というは身を崩したという謎なるべし』
とあり、材料の身を崩す事に由来し、
鉄火鮨は江戸の終わり頃すでにあった事になります。
鮪を使うとどうして鉄火というのでしょうか。
鉄火は、真っ赤に焼けた鉄とありますから
その辺りから来たのかもしれません。