どうしたって幸せになるしかない昔話 その⑦

 

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「鏡よ鏡、この国でもっとも美しい女はだれ?」
 

「お妃さま、だれを美しいと思うかは、個人個人の主観によるものです。比べられるようなことじゃありません」
 

「まあ、憎らしい! おまえは魔法の鏡だというのに、お世辞のひとつも言えないのね!」
 

「わたしは真実しか口にできないことになっているんです。文句があるならベルサイユへ──いえ、神さまかグリム兄弟におっしゃってください」
 

「そのうえ、責任逃れとは! たいした魔法の鏡だこと!」
 

仕方がないので、お妃さまは質問を変えることにしました。
 

「それなら、この国でいちばん人気がある女はだれ? それなら答えられるでしょう」
 

「もちろんです。偉大なる魔法の鏡であるこのわたしは、みんなの心のなかが読めますからね。瞬時に集計してごらんにいれましょう。心の準備はよろしいですか?」

 

「もったいぶってないで、いいから、さっさとお言いなさい」

 

「興をそぐ人だなあ。わかりましたよ。昇順で発表しますか? それとも降順ですか?」

 

「わたしが知りたいのは、いつだって一番だけよ!」

 

「いいでしょう、では発表します。エヘン! 第1位はお妃さまで、得票数22765票。第2位はシュタイケル伯爵夫人、得票数13843票。第3位はゲールマン男爵令嬢、得票数12998票。第4位はバルト村の粉屋の娘ヒルダ、8331票。まだつづけますか?」
 

結果に満足したお妃さまは、ふんぞりかえって高笑いを響かせました。
 

「やっぱりわたしは国でいちばん美しい女なのだわ。ひねくれ者の魔法の鏡め、最初から素直にそう言えばいいものを」
 

それから二年後──
 

「鏡よ鏡、この国でいちばん人気のある女はだれ?」
 

「第1位は白雪姫で38665票、第2位はお妃さまで14760票──」
 

「なんですって!? 白雪姫なんか、まだオムツもとれていない赤ん坊じゃないの!」
 

「そりゃあ、白雪姫はいまが可愛い盛りですからねえ。だれだって、とうのたったおばさんより、赤ちゃんのほうが可愛いに決まってます」
 

「おばさんですって!? よくもそんなことを!」
 

「わたしは真実しか口にできない設定なんです。文句があるならベルサイユへ──」
 

「ポリニャック夫人も神もグリム兄弟もくそ食らえよ!」
 

「ひどい。わたしのセリフをとりましたねっ」
 

「わかったわ。それなら、質問を変えましょう。この国の熟女のなかで、もっとも人気のある女はだれ?」
 

「そりゃあもちろん、お妃さまが57812票でぶっちぎりです」
 

お妃さまは満足してうなずきました。
 

白雪姫が熟女になるまではまだまだ時間があったので、お妃さまはその後も長らく熟女部門のトップを走りつづけました。
 

そうして、やがて白雪姫は成長し、隣国の王子に嫁いでいきました。
 

お妃さまは、その後も鏡を相手に毎日コントを繰り広げ、それなりに満足して生きたということです。
 

めでたしめでたし。

 

-終わり-