どうしたって幸せになるしかない昔話 その⑥
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昔々ある国に、美しい服が大好きな王さまがいらっしゃいました。
ある日のこと、その国にふたりの詐欺師がやってきて、自分たちには、比類なく美しいが愚か者の目には見えない服を作ることができるとふれまわりました。
そこで王さまは、ふたりを城にお呼びつけになり、人払いを命じられました。
「そなたらの評判は耳にいたしておるぞ。愚か者の目には見えぬ織物か、たいしたものよな。まさに天才といえよう」
「お褒めにあずかり、光栄に存じます」
「しかしな、懸念もある」
「ご心配にはおよびませぬ。賢明な陛下にはきっと、われわれの服がお見えになります」
「馬鹿者、そんな心配はしておらぬわ。わしは愚か者ではない。見えるのは当然ではないか」
「はあ、ごもっともで。では、そのご懸念とは?」
「わしは日ごろから国民の教育には力を入れておる。各地に学校を建て、優秀な教師を優遇し、奨学金制度もととのえ、おかげで国民の識字率はこの上もなく高い」
「それは陛下のご人徳の賜でございますな」
「うむ。しかしな、それでもじゃ、それでも一部には、賢いとは言えぬ者たちもおるのだ」
「誠に残念なことにございます」
「たとえ一部の者たちとはいえ、やはりそういう者たちの目には、そなたらの服を着たわしはすっぽんぽんに映るのであろう? どうじゃ」
「それはまあ、当然そうなりますな」
「うむ。たとえごく一部の者たちとはいえ、やはりすっぽんぽんに見られるのは恥ずかしい」
「しかし、この宮廷に集まる高貴なみなさま方が、愚かということはあり得ませぬ。ご心配はご無用でございます。ですから陛下、ぜひとも一着われわれに──」
「いや待て。真の問題はほかにある」
「なんでございましょう?」
「そなたらの素晴らしい生地を使ってドレスを仕立てた場合、ご婦人方のヌードを楽しめるのは、愚か者だけということになるではないか! どうじゃ!」
「あっ!」
「賢い者が損をして、愚か者だけが特典をあたえられる、そのようなことがあってよいものか! よくない! 断じてよくない!」
「それはまあ……言われてみれば……」
「そこでじゃ。ものは相談なのだがな──」
ここで王さまは目をらんらんと輝かせて身を乗りだし、声をひそめておっしゃいました。
「女の目には素晴らしいドレス、しかし男の目にはすっぽんぽんに見える、そういう生地が織れんものかな? どうじゃ」
「ええっ?」
「ふふふ。賢いわしはひらめいたのじゃ。これと目をつけた美しい女にドレスを下賜し、わが目を楽しませようという算段よ。これぞ男の天国じゃ。どうだ?」
「それはまあ……実現すれば、確かに男にとっては心楽しいことでございましょうが……」
「実現すれば、ではない! 実現させるのだ、そなたたちが!」
「ええっ!」
「そなたらならできる! いや、天才のそなたらに、できないはずはない!
やれ!!」
「そっ、そんな無茶な──」
「なにが無茶じゃ! 愚か者に見えない生地を織れるのであれば、男にだけ見えない生地も織れるであろうが! もしもできなければ、そなたらが本気を出していないとみなして、打ち首にしてくれようから、そう思え!」
「げえっ!!!」
ふたりの仕立屋はその夜のうちにお城から逃げ出して行方をくらませ、かくして、王さまのよこしまな野望はついえたのでした。
めでたしめでたし。
-終わり-