「かわいい」論 (ちくま新書)/四方田 犬彦
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四方田犬彦さん『「かわいい」論』です。

四方田さんは、現在は、映画批評で有名な方ですが、大学時代の専攻は宗教学、大学院時代の専攻は比較文化学と様々な分野を渡り歩いている、思想的な器用さ・柔軟さを備えた方です。研究のために訪れた大学は、ソウル建国大学、コロンビア大学、ボローニャ大学などと、一時期は世界中を飛び回っていました。勢い、批評内容も、特定分野に偏ることなく、映画、文学、漫画、料理、都市論と広範囲に及び、ひとつのテーマを論じるときにも、実に多角的な観点から論が展開されます。何より、難解な術語を使うことなく、日常の言葉で語ってくれるのが、僕のような素人には嬉しい限りです。

【内容】
世界に冠たる「かわいい」大国ニッポン。キティちゃん、ポケモン、セーラームーンなどなど、日本製のキャラクター商品が世界中を席巻している。その市場規模は二兆円ともいわれ、消費社会の文化商品として大きな意味を担うようになった。では、なぜ、日本の「かわいい」は、これほどまでに眩しげな光を放つのか? 本書は、「かわいい」を21世紀の美学として位置づけ、その構造を通時的かつ共時的に分析する、はじめての試みである。

第1章は序論、第2章では「かわいい」の用法・語源が探られます。第3章では、現在の大学生に対して行われた「かわいい」に関するアンケート調査の結果を報告し、第4章からが本番です。第4章は、「かわいい」と「美しい」の宿命的関係および、「かわいい」と「グロテスク」との隣接競合関係を論じています。第5章は、ミニアチュール論、第6章は、第5章をうけて、ノスタルジアとスーヴニール、すなわち記念品や土産物の哲学が語られます。第7章では、現在日本に流通する代表的な女性雑誌を分析し、そこで「かわいい」という形容詞がどのような使われ方をしているかが炙り出されます。第8章は、実地調査です。東京の「かわいい」3大スポット、秋葉原、池袋サンシャイン付近、そして新宿2丁目(同地はそれぞれ男性、女性、およびヘテロ性(ゲイ・レズビアン)に対応)を歩きながら、そこで商品として流通している「かわいい」がジェンダーによっていかに異なった様相を示しているかを語ります。最後、第9章は今日のグローバライゼーションの中で、日本発「かわいい」現象が、東アジアはもとより、欧米にまで波及し、いたるところで巨大な「かわいい」産業を築き上げていることを指摘します。

社会学的手法、民俗学的手法、哲学的手法を用いながら盛りだくさんで「かわいい」が論じられていることがわかると思います。「かわいい」の本質にまで、何とか肉迫してやろうという著者の意気込みが感じられる1冊です。

「まんだらけ」ヨーロッパ一号店がボローニャに開店し、コソヴォ難民キャンプで『セーラームーン』が放映され、ハーヴァード大学で「CUTISM」なる分野の学会が開かれ、「KAWAII」が英単語として認識される今日、世界中にはまさに「かわいい」の嵐が吹き荒れているといってもよいでしょう。『涼宮ハルヒの消失』に世界中のファンが、ネット上で歓声を上げたのは記憶に新しいですが、そのとき、確かに僕は、「かわいい」なるものの世界的広がりに驚嘆の念を感じたことを覚えています。

その衝撃は一体どこからやってきたのか、なぜ衝撃を感じたのかが、本書を読んで少しわかったような気がしました。久しぶりに読みごたえのある新書を読んだという感じです。サブカルに特に興味のない方でも、一流の学者がどのような手法で研究を行うのかの、その方法論に触れることができるので、一読に値すると思います。