親の生存中に空き家になった実家を売る?貸す?


このお悩み、意外と多いかと思います。特に賃貸に・・・・と考えている人は、築年数の経った家を実際借りてもらえるかどうか・・・と言うことを考えてください。


で、賃貸にした場合の確定申告について


所有する収益不動産の種類が増えて、不動産経営の規模が大きくなると、様々な特典を受けることができます。この特典を受けることのできる不動産経営の規模の基準を『事業的規模と』いいます。


青色申告特別控除について・・・。賃貸経営自体が事業的規模の場合は一定の要件を満たせば、最高65万円が控除できます。それ以外の場合には最高10万円の控除となります。青色申告だけではダメと言うことです。では、事業的規模の場合とは・・・


次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業(事業的規模)として行われているものとして取り扱われます。
(建物の場合)
(1)貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

ただし 
①共有で持っている場合・・・共有持分で按分した数ではなく、実際の客室、棟数により判定します。
②不動産会社に一棟を一括貸付をしている場合・・・例えば10室を一括で貸付している場合は、1棟と判定する
のではなく、あくまでも10室として判定します。一戸建ては2室を1棟換算します。


(土地や駐車場の場合の場合)
一般的に土地(駐車場を含む)の貸付の場合は5件で貸家1室と換算して判定します。


具体例として・・・
(例題)
マンション(3)+ 1戸建(4×2=8) + 駐車場(10÷5=2)=13室換算 ←事業的規模に該当です。


でも、これはあくまで目安であり5棟10室基準を満たしていなくても、事業的規模とみなされることがあります。家賃収入等によっては事業的規模と認定されることがあります。






■事業的規模のメリットについて・・・
(1)青色申告の「事業的規模」である場合に限って専従者給与を必要経費に算入することが可能です。
妻や子供(15歳以上)に対して家賃収入から給料を支払うことができ、さらに給料全額を経費として収入から差し引くことができます。この制度は、同じ家計のなかでやりくりしている家族が対象となりますので、子どもが独立して別の収入を得ている場合は対象となりません。しかし、進学等で一人暮らしをしており、仕送りをしているようなケースでは対象となります。年の為ですが、勤務実態が無ければ対象となりません。
ここでの注意は、家族に給料を支払うと言うことは、配偶者控除や扶養控除の対象からはずれてしまうということです。そのため、支払う給与はこの控除額以上の金額で設定することが必要です。
※配偶者控除 38万円 / 扶養控除38万円~63万円(対象となる年齢により異なる)


(2)青色申告の10 万円控除は青色申告者であれば誰でも適用されるが、65 万円控除は事業的規模の場合のみ。  
※65万円の青色申告特別控除を受けるための要件
a)不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営んでいること。
b)これらの所得の金額に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること。
c) bの記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける
  金額を記載して、法定申告期限内に提出すること。

(3)賃貸用固定資産の取崩し、除却などの損失について全額必要経費可能
  (事業的規模でない場合は、その年分の資産損失を差し引く前不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます)
例)老朽化した賃貸物件を取り壊した場合、解体費用を必要経費に算入できます。そして解体時点での未償却残高は資産損失として必要経費に算入しますが、ここで「事業的規模」に該当しない場合には、資産損失を計上して赤字を出すことはできないとされています。「事業的規模」であれば多額の赤字を計上して、損失を3年間繰り越し、当面税金は「損失額」によっては発生しないかもしれません。
また、火災や地震で建物に被害が発生した場合も、その全額を経費として計上することができます。事業的規模の場合、損失がその年の不動産所得から差し引けない場合には、他の所得の黒字から差し引くことができ、それでも引ききれない分は翌年以後3年間にわたって損失を繰り越すことができます。
事業的規模ではない場合、損失の計上はその年の不動産所得の金額が限度となり、損失の繰り延べはすることができません。


(4)賃貸料等の回収不能による貸倒損失について回収不能となった年分の必要経費に算入可能
  (事業的規模でない場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入可能)
 しかし、事業的規模でない場合にはその収入計上した時に遡って収入を取り消すことになります(所法51②、所法64①)したがって、過年度に収入計上していて貸倒れがその翌年以降になった場合、その収入を取り消そうとすれば、更正の請求を行わなければなりません。



(5)事業的規模の場合、納付税額の延納に係る利子税で不動産所得に対応する金額が経費算入可能
  (事業的規模でない場合は、必要経費に算入不可)
例えば、資金繰りの関係で、所得税を延納している場合にかかってくる利子税は、その不動産賃貸業が事業的規模で行われていれば、不動産所得の必要経費に算入することができます。(事業的規模でない場合には不可)






■賃貸のまま相続の場合・・・定資産税評価額が減額されます。
貸家の用に供されている家屋 固定資産税評価額 ×(1-借家権割合×賃貸割合)


貸家建付地  自用地評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
→貸家の目的とされている宅地、すなわち、所有する土地に建築した家屋を他に貸し付けている場合の、その土地のことをいいます。(借家権割合、借地権割合は地域によって異なります。借家権割合は30%、借地権割合は50~60%の地域が多いようです。)


例えば、建物が1,000万円、土地(30坪)が2,000万円、合計3,000万円の場合。
空き家のままなら、3,000万円の固定資産税評価額ですが、賃貸に出している場合の評価額は、借家権割合は30%、借地権割合は60%、賃貸割合は100%とします。
家屋の固定資産税評価額は、1,000万円×(1-30%×100%)=700万円土地の固定資産税評価額は、2,000万円×(1-60%×30%×100%)=1,640万円合計2,340万円となり、空き家のままの場合に比べて評価額は660万円低くなります。


さらに、貸付用の小規模宅地の減額の適用があり、貸付事業用宅地等に該当する宅地は200平方メートルを限度に50%、特定居住用宅地等に該当する宅地は240平方メートルを限度に80%、評価額が減額されます。


なお、相続開始の日が2015年1月1日以後の場合は、特定居住用宅地等に該当する宅地は330平方メートルを限度に80%評価減となりました。




メリットを受けるためには青色申告申請書を税務署に提出する必要があります。詳しくは税務署まで。




■事業的規模のデメリット
①事業的規模の不動産投資を行う場合には、各都道府県が課税する事業税の対象となります。青色申告特別控除額(65万円の控除)を差し引く前の所得から、290万円を差し引いた残額の5%が課税されます。なお、事業税の課税対象となる不動産投資の規模は、≪5棟10室基準≫に準拠するのではなく、各都道府県で異なるので注意が必要です。


例)家賃(700万円-経費100万円)-青色申告特別控除額65万円=5,350,000円
(青色申告特別控除前の所得 6,000,000円-事業主控除2,900,000円)×5%=155,000円


②帳簿の作成が必要になります。
事業的規模の不動産オーナーで、各種特典を受けるためには家賃収入や経費などを帳簿に記帳することが必要です。さらに、作成した帳簿は原則として7年間の保管義務があります。







不動産貸付業は?
貸付けの態様認定基準
【住宅】 左の基準以下でも、建物貸付総面積が一定面積以上で、かつ、貸付料収入金額が一定額以上である場合(※都道府県により異なる)

1⃣マンション、アパート等の共同住宅  10 室以上 
2⃣一戸建て   10 棟以上

3⃣住宅以外の建物独立建物以外  10 室以上
4⃣独立建物  5 棟以上


【土地】
5⃣住宅用の土地  貸付契約件数10 件以上又は貸付面積2000 ㎡以上
6⃣住宅用以外の土地  貸付契約件数10 件以上

【上記のものを併せて貸している場合】
7⃣室数、棟数、貸付契約件数の合計が10 以上




駐車場業は?
8⃣貸付けの態様認定基準  青空駐車場の貸付け収納可能台数10 台以上
9⃣建築物の貸付け  規模を問わず該当




「事業税における事業的規模」と「所得税の事業的規模」との違い
所得税は事業的規模に該当した方が有利になりますが、逆に事業的規模になると課税されてしまうのが事業税です。事業税における不動産賃貸業の事業的規模の定義は、所得税のそれとは異なります。

① 不動産貸付業と駐車場業
まず特徴的なのは、不動産貸付業と駐車場業に分かれていることです。アパート10室と青空駐車場5 台を貸し付けているケースを例に見ると
所得税の形式基準では、5 棟10 室基準を満たしています(駐車場5 台=1 室なので合計11 室とカウント)ので、問題なく事業的規模に該当します。しかし、事業税では不動産貸付業と駐車場業は別個のものと考えています。したがって、不動産貸付業はアパート10 室で事業的規模に該当し事業税の課税対象となりますが、駐車場業は5 台(10 台未満)でこちらは事業的規模には該当せず、事業税は課税されません。不動産所得の中でも、事業税が課税される部分とそうでない部分が出てくるわけです。なお、事業税の計算においては、不動産所得の金額を課税対象となるものとならないものの収入金額の比であん分し、課税対象分を抜き出しています。もし事業税の課税対象部分と対象外部分とを区分して経理している場合には、あん分計算ではなく実額で計算してもらうことも可能ですので、都道府県税事務所にご相談ください。

では、アパート9 室と青空駐車場5 台の場合はどうなるでしょうか。所得税の形式基準では、駐車場は5 台を1 室と数えますから、9 室+1 室=10 室で事業的規模に該当します。一方、事業税では、不動産貸付業は10 室未満ですから事業的規模に該当せず、駐車場業も10 台未満ですから事業的規模に該当しません。結果的に事業税はまったく課税されないことになります。

② 住宅は10 棟10 室基準
次に、一戸建ての貸家住宅は「5 棟」ではなく「10 棟」が基準となっている点です。また、土地の貸付けは10 件以上で事業的として認定されてしまいます(所得税では貸付件数5 件で1 室扱い)。



③ 棟数や部屋数だけでなく面積や収入額も判断材料にさらに、貸付面積や収入金額も判定要素になっていることにも注意が必要です。それぞれの基準は都道府県ごとに異なっていますので、各都道府県に確認が必要です。

(3)事業税の計算
① 税率
不動産貸付業、駐車場業は第1 種事業となり、税率は5%です。(その他の業種は税率が変わりますが、ここでは端折ります)課税標準の算定に当たっては、確定申告の不動産所得の額がベースとなりますが、青色申告特別控除額は控除しません。青色事業専従者給与(事業専従者)控除後の差引金額が課税標準となります。
② 事業主控除
個人については、事業主控除額が控除されます。控除額は年間290 万円ですが、事業をしていた期間が1 年に満たない場合には、控除額も月割計算されます。と言うことは、年の途中から新たに不動産賃貸業を始めた方は、不動産所得が290 万円以下であっても事業税がかかることになります。
個人事業税額={所得金額(注1)-事業主控除額(年間290万円)}×税率(5%)
(注1)青色申告特別控除前の金額