消える立体パノラマ 峠三吉の8月6日の日記より | ヒロシマ平和公園の四季

ヒロシマ平和公園の四季

「ヒロシマのこころ」とは、報復の連鎖を断ち切ること。
広島平和公園の碑めぐりのガイドをしている"たっちゃん"が、
平和公園の四季を通じて「ヒロシマのこころ」を届けます。

原爆資料館の立体パノラマが全面リニューアルにともない撤去され、2018年の再オープン時にはCG(コンビューター・グラフィック)合成の映像に変換されるという。そこで8月6日に何が起きたのか、峠三吉の日記から広島がヒロシマに変容した様子を知ることができる。

八月六日

今日こそは気胸を果さむとて朝食を早めに済せ家を出でむと二階にて用意を整へありし時(午前八時過頃)急にあたりの気配の異様なるを感じ眼をやれば外の面に白光たちこめ二階より見ゆる。畑や家並みの其処其処より音なく火焔閃めき白煙の斜めに立昇るが瞬間眼に映りぬ。

 

焼夷弾だと叫び上衣をひっかけたとたん猛然と家振動し窓硝子微塵に飛び天井裂け落ち片々身に降りかかる。爆弾だとかたはらの頼雄を伏せしめその上に布団を掛けやる。その時最早や轟炸の瞬間は過ぎゐしなり。後続の模様無ければとやゝ気を安らかせ、頼雄を気使い昇りきし姉より先壁土にて埋りたる階段を降りて父を呼べば父は壕より出て来ぬ。前額に拳大の腫れあり、その頂上より血流れ居れど大した事もなき模様。

 

余の額よりも血の濃く一筋流れあるを云はれて知りぬ。階下も踏み越ゆるに困難な程吹き飛びし建具の上に折重なりてピアノ其他の家具打ち倒れ惨憺たる有様。附近の兵士分宿所の前にて応急手当を為しゐると聞きて直ちに父を連れゆき繃帯を巻きもらふ。

 

その頃まで未だ敵の盲弾が翠町附近に落下したるものと思ひ居りしが、町の方を望むに煙雲とみに烈しく空を蔽ひ次第に大火の様子さえ望見さるるに至りし為都心部も容易ならぬ災害を罹りある事を知る。三々五々、全身ズルズルに剥けたる火傷者の裸体にて逃れ来るあり、タン架にて運ばれ来るあり。大河方面へ避難する者相つぎて通る。

夕方近く専売局前の臨時宇品警察所へ行きて列に並び罹災証明を受け乾パンの配給を受く。トラックにて運ばれ来る負傷者多し、負傷せざるもの姿少なし。

夜、家消失せる為泊りに来りし住友支店長岩田夫人達の口より電鉄前附近より彼方は火の海にして、町なかは死屍と瀕死の苦悶者とに満つるといふ。嘗て罹災せる各大都市にも見ざる惨状を聞く。

 

敵は新兵器を使用せり、多分ロケット爆弾ならむなどとの噂つたはりぬ。硝子の破片を極力片付けて応接間に仮眠す。夜迫りてみゆる火焔(部屋の中迄明るむ)や不明確な空襲警報などに度々起さる。