3月10日(日)、地元の映画館で、METライブヴィーイング「カルメン」(新演出)を鑑賞した。
素晴らしい公演だった
「カルメン」といえば、公演回数がトップ3に入るほどの人気演目らしい(指揮者のルスティオーニの言)が、私はそこまで好きではなかった。
しかし、今回の公演を鑑賞して、「カルメン」に対する評価が数段階アップした。
理由は、ロシア出身のカルメン歌い、アイグル・アクメトチナ。
最初の一声を聞いた瞬間に、カルメンを歌うために生まれた歌手だと確信した。
ロシア人と言っても、白系ロシア人ではなく、東洋人の血が混じったような容貌。目力のある切れ上がった黒い瞳に小さい鼻(白人のように高く大きな鼻ではないという意味)、ふっくらとした頬(頬骨が高い)。ロマ(ジプシー)のカルメンを彷彿とさせる容貌である。
まだ27歳とか。
初めてカルメンを演じたのは21歳の時。それ以来、有名なオペラハウスで引っ張りだこのカルメン歌いらしい。
ドン・ホセを演じたピョートル・ベチャワのいう通り、若いフレッシュなエネルギーが舞台中を席巻していた。
「カルメンを歌うことは、私にとって、それほど難しくはない。難しいのは、カルメンを生きることだ」
幕間のインタビューでアクメトチナが答えていた。
彼女のカルメンが素晴らしいのは、演技ではない、というところに尽きると思う。「カルメンを生きている」というまさに彼女の言葉通りの舞台であった。
「カルメンを生きる」というのは、舞台だけのことではなく、日常生活にも及ぶらしい。そのためか、来シーズン?は、カルメンを封印して、他の役どころ(ロジーナとか)を優先させたいと言っていた。
舞台はアメリカ。
カルメンが働くのは、タバコ工場ではなく、兵器工場。ドン・ホセは、闘牛士ではなく、ロデオのチャンピオンという設定。
特に印象的だったのは、第2幕冒頭の酒場でのシーン。
ここは、疾走する大型トレーラーの内部。スピード感、リズム感、躍動感に溢れていて、今更ながら、MET擁する合唱団のレベルの高さに感嘆した。
最後、ドン・ホセがカルメンを手に掛けるシーン。
ドン・ホセはカルメンを鍛刀で刺し殺すのではなく、偶然、道端に置いてあったバットでカルメンを殴り倒すという設定。カルメンは、悶え苦しむ隙もなく、文字通り、一撃で倒れた。
今回の演出のスピード感、躍動感を象徴するような幕切だった。
今後、この公演を越えるような「カルメン」を観ることは難しいのではないか。。。そんなことを思わせる素晴らしい公演でした。真の立役者であるMET総裁p・ゲルプ氏の手腕に感謝です。
指揮:ダニエレ・ルスティオーニ
演出:キャリー・クラックネル
カルメン:アイグル・アクメトチナ
ドン・ホセ:ピョートル・ベチャワ
ミカエラ:エンジェル・ブルー
エスカミーリョ:カイル・ケテルセン
スニガ:ウェイ・ウー
フランスキータ:シドニー・マンカソーラ
メルセデス・ブリアナ・ハンター