10月24日、東京文化会館小ホールで、大西宇宙のバリトン・リサイタルを鑑賞した。
なぜ、大西宇宙かというと。。。
今年の3月、「東京・春・音楽祭」で、リッカルド・ムーティ指揮の『仮面舞踏会』を聴いた。そのとき、日本人歌手で、一人、いいなと思ったのが、シルヴァーノだった。私の席からは姿が見えなかったのだが、声だけ聞くと、レナートを演じたヴァシレと遜色ないように聞こえた。後で大西宇宙と分かる。
大西宇宙の名前は、印象深いので覚えていた。最初に聞いたのは、2022年2月、新国立劇場での『愛の妙薬』における軍曹役。
この時が新国立劇場デビューだと言うことだが、上背もあるし、声量もあるし、デビューだとは思えないくらい落ち着いていて、軍曹としての傲慢さも出ていて、とても良かった。
なので、リサイタルにはあまり行かない私なのだが、初めての日本人リサイタル、応援のつもりで行ってみました。
今回は、「五島記念文化賞オペラ新人賞研修成果発表」を銘打っての公演。
パンフレットによると、五島記念文化賞は、
「オペラおよび美術の分野で今後の成長が期待される若い優秀な方々を顕彰し、海外研修の助成と研修終了後にはその成果を発表する機会を様々な形で提供して」いる。
大西は、2019年にウィーン、2020年にノースカロライナ、ワルシャワ、ニューヨーク、フィラデルフィア、ブダぺストで研鑽を積んだようだ。今回のプログラムが「旅」をテーマにした選曲が多いのはそのためらしい。
海外研修の成果発表ということで、プログラムには、耳慣れない作曲家の歌曲が並んだ。
言語も、フランス語、ドイツ語、英語、ロシア語と研修の成果を発揮して多彩。
でも、発音はどうなんだろう?
第一部で、フランス語、フランス語、ドイツ語と続いたのは分かった。四つめの『旅の歌』が始まって、これは一体何語なんだろう? ドイツ語? いや、違うかな〜、と思って聞いていたら、三つめの歌で、やっと英語と言うことが分かった。私の英語力の問題もあるから、なんとも言えないけど、日本人歌手にとって言語の問題は非常に大変だと思う。
選曲は、オペラのアリアじゃなくて、歌曲が多かった。
うーん🤔、歌曲がずっと続くのは厳しい。歌の意味はわからないし、ドラマティックでもないし、伴奏はピアノだけだし。
でも、最初に歌ったイベールの『ドン・キショットの四つの歌』は楽しめた。ストーリー性があって、情景を想像しながら鑑賞できたから。
最後に歌ったのはヴェルディの『ドン・カルロス』より「私の最後の日」(フランス版)。
わずか10日前に『ドン・カルロ』(イタリア語版)を聴いたばかりだったので、とても印象深かった。オペラのアリアは、背景がわかっている中で聞けるので、感情移入ができる。全く感情移入ができない外国語で歌われる歌曲とはそこが違う。
とにかく、大西宇宙が非常にスケールの大きいバリトン歌手であることはよく分かった。小ホールではあったが、8,9割は観客が入っていたし、満足して帰った客が多かったと思う。
プログラム
バリトン:大空宇宙
ピアノ:ブライアン・ジーガー
第一部
イベール:『ドン・キショットの四つの歌』
マスネ:歌劇『ドン・キショット』より「笑え、哀れな理想を」
コルンドルト:歌劇『死の都』より「あこがれと空想は蘇る」(ピエロの歌)
ヴォーン・ウィリアムズ:『旅の歌』(全9曲)
第二部
マーラー:『リュッケルトの詩による5つの歌』
プロコフィエフ:歌劇『戦争と平和』より「輝くばかりの春の夜空だ」
ウェルディ:歌劇『ドン・カルロス』より「私の最後の日」
アンコール
ミッチ・リー:《ラ・マンチャの男》より「見果てぬ夢」
バーンスタイン:《ウェスト・サイド・ストーリー》より「マリア」