6月20日、METライブヴィーイング8作目『チャンピオン』を鑑賞した。

 

(↑どことなく、「あしたのジョー」風)

 

作曲者は、ジャズと映画音楽の大御所、テレンス・ブランチャード。

 

ブランチャードは今までオペラを2曲作っている。一作目がこの『チャンピオン』、二作目が、昨年METで初演された『Fire Shut Up in My Bones』ということだ。

 

今シーズンのライブヴィーイングが発表された時、私が非常に注目していた演目の一つがこの『チャンピオン』であった。

 

何せ、黒人で、二階級の世界チャンピオンで、リング上で相手を殴り殺し(実際は昏睡状態ののち死亡)、ゲイで、という実在のボクサーの物語をオペラ化したものなのだ!

 

 

1幕で。

 

エミール・グリフィスは、70歳を超え、現在認知症を患っている(ボクサー後遺症?)。しかし、過去に、リング上で相手を滅多打ちにして、結果、死に至らしめたという、罪の意識をずっと引きずっている。

 

怒りに任せて滅多打ちにしたのも、グリフィスが相手から、Maricon(おかま野郎)とののしられたことが切っ掛けとなっている。

 

グリフィスは、アメリカ領ヴァージン諸島の出身。母親は8人(?)の子供を捨ててアメリカに行ってしまった。残された子供たちは、それぞれ親戚の家に預けられ、グリフィスは、魂に悪魔が宿っているという理由で虐待を受ける。

 

エミールがボクサー並みの筋肉を得られたのも、ブリックを頭上に掲げて立たされる罰を課されていたからだ、という、何とも悲惨な過去も明かされる。

 

青年時代のグリフィスを演じたのは、ライアン・スピード・グリーン。

 

上背があって、筋肉質で、ルックスもよく、褐色の肌、放つオーラも重量級。グリフィスを演じるのにこれ以上の人選はないだろう、と思えるくらい打ってつけの人材。ボクサーの体づくりをするため、30キロ減量したという!

 

大抜擢というのも頷ける。彼の存在なくして、『チャンピオン』がここまで大成功を収めることはなかったと思う。

 

グリーン自身も少年院出身というから、幸せとは言えない少年時代を送ったという点では、グリフィスと相通じるところがあるのかもしれない。

 

 

歌手陣の中で圧巻だったのは、ステファニー・ブライス(メゾソプラノ)

 

”オペラ歌手がジャズを歌うとこうなるのよ”というのをまざまざと見せ付けてくれた。いや~、恰好良かった、しびれました!

次の作品では、ブライスの登場場面をもっと増やしてほしい!

 

 

現代オペラというと、意味不明の音楽(不調和音)に、甲高いヒステリックな声、という印象があったのだが、この演目に関してはまったく違っていた。

 

ジャズ風の通奏低音に、比較的ゆったりとしたリズム。主人公の二人はバスバリトン。時折、せりふが入り、演劇風でもある。

 

 

「オペラ」と「映画」と「演劇」が合体したような作品。

 

現代的なテーマ(ゲイ、認知症、人種問題、貧困、等)を扱いながら、ひたすら芸術的、観念的と言うわけではなく、ダンス等、エンタメ的要素もふんだんに盛り込んである。

 

舞台の転換もスピーディで観客を飽きさせることがない。最初から最後まで映像に釘付けになった。

 

(↑ ダンスの一番面)

 

これからのオペラの一つの在り方を示唆した作品として、大注目の作品であった。

 

 

クローバークローバークローバークローバークローバークローバークローバークローバークローバークローバー

 

指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:ジェイムズ・ロビンソン


グリフィス(青年時代):ライアン・スピード・グリーン

グリフィス(現在):エリック・オーウェンズ

グリフィスの母:ラトニア・ムーア

ゲイバーの経営者:ステファニー・ブライズ