22日、METライブライブビューイングプレミアムで「セヴィリャの理髪師」を鑑賞した。

 

 

 

 

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劇場上演日:2007年3月24日

 

指揮:マウリツィオ・ベニーニ

演出:バートレット・シャー

 

フィガロ:ペーター・マッテイ

スザンナ:ジョイス・ディドナート

アルマヴィーヴァ伯爵:フアン・ディエゴ・フローレス

バルトロ:ジョン・デル・カルロ

ドン・バジリオ:ジョン・レリエ

 

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この公演は大人気らしく、毎年といっていいほどアンコール上映されている。少なくても、2016、17、18、19、21年と、ここ5回連続のアンコール上映である。(20年は中止)


 

METのライブビューイングは、2006−07年シーズンから始まった。最初は、6公演の放映。この「セヴィリャの理髪師」はその中の一作である。(他に、「魔笛」「清教徒」「エフゲニー・オネーギン」等)

 

 

「ビルボード」の週間映画ランキングで18位だった、とのことなので、当時から相当の人気公演だったようだ。

 

 

 

 

歌手陣は超豪華。

 

MET総支配人、ペーター・ゲルプ氏の方針に沿った人選。

 

つまり、歌の技量は当然として、スター性があって、演技力があり、ビジュアル的にも優れているということ。

 

 

ロッシーニ歌いとして、彼の右に出る者はいないという勢いのフローレスを筆頭に、プレゼンス力抜群(ちょっとありすぎなのが難点)のマッテイ、アメリカ人歌手で愛されキャラのディドナート、指揮は、イタリアオペラには絶対に外せないベニーニ。


この中では端役のドン・バジリオに、レリエまで投入するという力の入れよう。

 

この演目に対するMETの並々ならぬ思い入れが伝わってくる。

 

 

 

演出は、バートレット・シャー。

 

ゲルプ総支配人自らが招いたという。

 

このとき、シャーは、「ライト・イン・ザ・ピアツァ」で、トニー賞にノミネートされたばかり。この2年後の2008年、「南太平洋」の演出で、彼は、トニー賞最優秀賞を受賞している。

 

 

 

一番目を引くのが、オーケストラピットを取り巻くように設置された花道。最前列の観客に手が届く距離。(事実、マッテイは、最後のシーンで、観客たちにカード?を手渡していた)

 

 

伯爵は、客席から現れて、この花道に飛び乗って登場した。幕間のインタビューで、フローレスは、両足でジャンプしなくてはならないので、大変だと言っていた。

 

 

歌手たちが入れ替わり立ち代わり、この花道に立って歌う。一人で、あるいは二人で、あるいは6人で!!  

 

舞台と観客との距離が非常に近く、観客へのサービス精神満載の舞台。

 

 

 

もう一つ、目を引くのが、フィガロの移動する店。

 

3メートル以上ありそうな荷台に乗って、「ラ ラン、ラ、レラ」と歌いながら、華々しくマッテイのフィガロ登場。

 

荷台のドアを開けると、中は雑貨屋のよう。(写真参照) 押し寄せる女性たちを相手に、かつらをかぶせたり、髪を梳いたり、歯を抜いたり、手紙の代筆をしたり、なんでも屋フィガロの面目躍如。

 

 

 

舞台そのものは、意外とシンプル。たくさんの可動式ドアがあって、それらにカギをかけることで、ロジーナが閉じ込められていることを表現する。

 

舞台がシンプルなのには、訳がある。もう全編、ワイワイ、ごちゃごちゃの動きの中で、舞台が展開される。

 

人が動く、ドアが動く、オレンジの木が動く、天井から巨大なオブジェが下がってきて、荷台をペシャンコにする。舞台は、常に変化している。

 

 

 

バルコニーは空中に設置されている。バルコニーに登るには、ほぼ垂直に立て掛けられた梯子を登らなければならない。高所恐怖症なら絶対にのぼれないよ。

 

フィガロと伯爵がバルトロの屋敷に忍び込む場面。

 

マッテイは実に身軽にスイスイと梯子を登っていく、長いコートを着た伯爵は若干登りづらそうだが、二人とも難なくクリア。


 

 

 

歌手の皆さんの歌唱や演技は、素晴らしすぎて、もう、言及しても仕方がないレベルなので、簡単に。

 

 

1幕で、フィガロが登場するシーン

 

こんなにカッコいいフィガロは、反則でしょ(笑)

 

長身をいかした、若々しく颯爽たるフィガロ。町の女たちを夢中にさせるセクシーさもあって、一気に聴衆を引き付ける。

 

「セヴィリャの理髪師」及び「フィガロの結婚」の作者、ボーマルシェ自身も、ダンディでセクシーで、女性たちの注目の的だったというから、カッコいいイケメンフィガロもありだと思う。

 

 

 

ディドナートは、演技力と歌唱力を兼ね備えたメゾ。軽快で知的で、行動的で、はじけるようなロジーナ。おそらく、彼女自身がロジーナに似ているんだと思う。

 

 

この演出の初演では、ロジーナをディアナ・ダムラウが演じたということ。ソプラノがロジーナを演じることもあるのね。彼女もディドナートに負けない弾けるロジーナを演じたはず。観てみたかったな~~。

 

 

ディドナートがインタビューに答えて、いろんな歌手が歌っているので、それらとの比較じゃなくて、初めて聴いた、と思ってもらえたら嬉しい、みたいなことを言っていたが、恐らく、ダムラウを念頭をにおいての発言だったのだろう。あとで気が付いた。

 

 

 

伯爵の2幕最後のアリア。難易度が高く、かつてはカットされていたそう。歌い終わったあと、満場の拍手喝采の中で、フローレスは、しばらく目を閉じて、感動を味わうように花道に立ち尽くしていた。

 

フローレスの難点は、あまりに楽々と自然に歌うので、このアリアがどれだけ困難なのか、素人には分からないという事。ぜひ、別な歌手と聞き比べてみたい。

 

 

 

レリエのドン・バジリオ。彼はキャラクターものが得意。派手な顔だちもキャラクター向き。「ファウストの劫罰」のメフィストフェレスは、はまり役だった。

 

ドン・バジリオの歌う、中傷(Calunnia)のアリアなんて、主役級のド迫力。音楽もマッチして、オペラブッファなのに、おどろおどろしささえ漂う。

 

 

 

デル・カルロのバルトロ。この役は、イタリア人以外は無理かと思っていたが、彼はイタリア系アメリカ人らしい。超早口言葉が続くアリアは、ちょっとでも息継ぎを間違ったら、息が止まりそう。

 

あの縦にも横にも大柄なからだで、よくぞこの軽妙な歌を歌ったと思う。若干、重たく、危なっかしいところがまた、バルトロの年寄り臭さを表現していて、逆に良かった。軽快に転がしたら、むしろつまらないかも、と思わせてしまうところも、技量のうち。

 

 

 

もう一人、バルトロの使用人が登場する。腰の曲がった白髪の、ちょっと不気味な門番。恐らく、有名な喜劇俳優だと思う。老人のはずなのに、派手に転んだり、ドタドタ、ヨタヨタ走ったり、彼が舞台にいるだけで、コメディ度がアップする。

 

 

 

 

歌唱上の技術と、音楽性とエンターテイメント性が、見事に融合した稀有な舞台でした。

 

 

 

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マッテイはMETデビューだったみたい。スエーデンのご両親に「月曜に帰るよ~」ってメッセージを送っていた💛

 

 

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Sevilla(スペイン語), Siviglia(イタリア語)に対して、セビリア、セビリャ、セビーリャ、セヴィリャ、セヴィーリャ、といろんなカタカナが入り乱れている。この中で、一番あり得ないのは「セビリア」だと思うが、なぜかよく使われている。