「どうやったら作家になれますか」

「『獣の奏者』や『精霊の守り人』みたいな話は、

どうやって生まれてくるんですか」というご質問に、

本当に意味のあるお答えをするためには、

その物語を書くまでに私がたどってきた道程すべて、

お伝えしなければなりません。

―物語は、私そのものですから。

       「作家になりたい子どもたちへ」より  




物語ること、生きること(著:上橋菜穂子/構成・文:瀧 晴巳)



児童文学のノーベル賞とも言われている国際アンデルセン賞の作家賞を今年受賞した、ファンタジー作家で文化人類学者でもある上橋菜穂子さんのエッセイ集。


上橋さんの作品は「獣の奏者」で初めて触れ、以降そこから遡って守り人シリーズ(「精霊の守り人」、「闇の守り人」など)や「デビュー作の「精霊の木」、守り人シリーズを書き始めてから完結するまでの期間中にひとしずくを落とすように書かれた「狐笛の彼方」も読んだ。

これらの作品はファンタジー、つまりフィクションの世界を描いていながらも、その世界観は現実や現代社会の縮図となっている。

上橋さんの作品を、フィクションではなくノンフィクションの物を読んだのはこの「物語ること、生きること」が初めて。


自分は上橋さんの作品で特に好きなのが守り人シリーズで、主人公のバルサはまさに少女時代の憧れや理想像、それのために女だてらに武道が好きで、愛読書が「リングにかけろ」という当時の女子高生とは思えない上橋さんのなりたかった自分がモチーフになっていた。

「リングにかけろ」が愛読書なのはびっくりしたけど、バルサのキャラクター設定を思うと不思議ではない気もした。

バルサは同じ女性だけでなく、男性にとっても自分もこうなりたいという憧れの対象になる女用心棒であり、プロフェッショナルでありスペシャリストなんだと思う。


また上橋さんはファンタジー作家としてだけでなく文化人類学者としても活躍されていて、フィールドワークによるアボリジニー(オーストラリアの原住民)の研究についても書かれていて、そこで感じた物が多くの作品に出てくる様々な民族の文化、思想、発想にも反映されていて、それがフィクションでありながら現実や現代社会の縮図にもなっている作品の世界観を生み出すファクターにもなっている事が窺えた。


前述のフィクション作品ではストーリーと世界観はもちろん、光景や人の心情のおける情景描写のディティールの起こし方や表現力にも引き込まれる。

ノンフィクション作品なのでフィクション作品のようなスケール感よりも、より身近な物でもあり同時にまた引き込まれるような描写はやはり上橋さん。

ノンフィクションであれ、たとえフィクション(架空、異世界、ファンタジー)であれリアル。

「現実」(ノンフィクション)という意味だけでなく、「本物」とか「真の」という意味での「リアル」なのだ。


ある音楽ライターが「音楽がリアルであるかそうでないかは、作り出す人間、演奏する人間によって決まる。」と言っていた。

音楽に限らずクリエイティブな事すべてにあてはまるのではないだろうか。

文筆、執筆もまた然り。


音楽と言えば、この本を読んでいて思ったのが、自分にとって上橋さんの作品(原作小説だけでなく、アニメ化、コミック化による作品群も含む)に触れるという事は、自分の好きな音楽、好きなアーティストに触れる事にとても似ていると思った。

この本には上橋さんが幼少期や学生時代に読んだ本(漫画も含む)についても触れられており、それはどんな本なのか自分でも実際に読んでみたいと興味も湧いた。

これは自分の好きな音楽に触れ、それに夢中になったり感動したりその中で伝えられてる事を自分の中で昇華しようとするだけでなく、そのアーティストが影響を受けた音楽やアーティストにも興味を持ち聞こうとするのと同じ。

自分がSIAM SHADEというアーティストとその音楽に触れ魅了され、そして彼らのルーツを辿ってRUSH、DREAM THEATER、VAN HALEN、NIGHT RANGER、SKID ROWの音楽を聞いたのと同じだった。


リアル(本物)なファンタジー、ファンタジーだけどリアル(現実的)な作品を描く上橋さんの、リアル(現実的な)なリアル(本物)。

やはり本物には触れる価値があります。