結局全然寝られないまま朝になった。妻氏はしっかり寝ていた。


今日は何とも名残惜しいが、日本に帰らなくてはならない。行きが成田からフランクフルト迄の直行便だったのに対して、帰国便はロンドン→ムンバイ→香港→羽田という妙な経路で帰る。特典航空券で航空券代が無料なので仕方ない。これしか取れなかったのである。しかも香港まではビジネスクラスで帰れる。


さて、我々はロンドン・ヒースロー国際空港10:05発、ムンバイ・チャトラパティ・シヴァージー国際空港行きブリティッシュエアウェイズ139便に乗る為に、宿を6時に出発した。ヒースローではチェックインと保安検査が優先的に行えると言えど、毎度お馴染み激混み空港で何があるか分からないので、早めに行って出国した後にラウンジで一服した方が安全だ。体力も限界突破していそうな予感がしていたので、パディントン駅を出たら空港までノンストップのヒースローエクスプレスの割引券を結構前に予約していた。過去の自分は完全にファインプレーだった。


意図せずほぼ徹夜になってしまった上に、これまでの軍隊生活が祟って、空港に着いた頃には体力は微塵も残っていなかった。空港でやったことと言えば、記念に前日の戴冠式の様子を記した新聞を買った事と、ラウンジで軽く朝ごはんを食べて、それ以外はずっとボーッとしていただけだ。妻氏はいつの間にかユニオンジャックのシールを買っていた。ちなみにそのシールは私が今機内持込用にメインで使っているリモワのスーツケースにいつの間にか貼られていた。


ラウンジのモニターがBoardingに変わったので搭乗口へと向かうと、その近辺だけ既にインド風味が漂っている。飛行機に乗る時は大体上級クラスや航空会社の上級会員から搭乗し、それ以外のお客は並ぶなり座ったままで待つのが普通と思っていた。が、ここは既にインドなのだ。私の常識など通用しない。我先にとインド人軍団がゲートの周りに集っていた。主張の少ない極東の民は大人しく待っていた。遠目で見ながらおぉインドという感想を持った。ちなみに見た限り日本人はおろか、東洋人すらも乗っていなかった。我ながら変なルートを選んだものである。


飛行機には何やら絵が描いてあった。


私は空港でのチェックイン時、飛行機の搭乗時の2回、結構心臓がバクバクしていた。日本人がインドに入国するにはビザが必要だが、入国せずにトランジットするだけならその限りではないとインド大使館お抱えらしい機関?の若干怪しそうなHPに書いてあったとは言えど、カウンターと搭乗時にチェックするスタッフの気紛れ故、ビザが無い事を理由に搭乗拒否するかもしれない可能性にビビっていたのだ。何事も初めての時は要領が分からない。結果、カウンターでは何も聞かれず、搭乗時は前に並んでいる乗客全てに対してビザのチェックがあったので、予め香港行きの搭乗券を見せたら、ビザのチェックは無く普通に通れた。緊張し損だった。


座席はまさかの個室だった。ビジネスクラスで扉が閉まるタイプの座席に当たったのはこれが初めてだ。上は空いているが、扉を閉めてくつろげるのは有難い。


ブリティッシュエアウェイズの座席


飛行機は定刻通り離陸し、程なくして機内食の時間となった。配られたメニューによると、しっかりランチのコースになっていて、メインはBraised Welsh leg of lamb、Chicken kolhapuri、Paneer mirchi la salanの3つが記載されていた。即Braised “Welsh” lambはウェールズ料理という理由で消えた。残り2つが分からない。インド行きなのでインド料理だろうが、説明書きを見ても聞いたことも見たことも無い単語ばかりなので、さっぱり見当が付かない。たまたまアテンドしてもらった乗務員さんがインド系のイケおじだったので、残り2つはインド料理かと聞いてみたところ、やはり予想通りだった。超絶早いブリティッシュイングリッシュを聞き取った限りでは、どうやら南インドのカレー風味の料理で、中の具は鶏肉か野菜かどちらかが選べて、とりあえず美味いから食べてみろという事だけだった。スパイスの名前を言っていたっぽいが、馴染みがなさ過ぎて完全に右から左だった。私は辛い食べ物が大好きなのと、特にカレーは人類の3大発明の1つと思っていて、以前1人でマレーシアに行った時は、クアラルンプールにあるインド街すぐ近くの宿を取って、毎日朝からカレー、ある時は3食全カレーでカレーの食べ比べを平気でやるようなカレー好きなので、すぐさまそれにした。尚、どっちにしたかは覚えていない。妻氏は辛い物があまり得意ではないが、ウェールズ料理と天秤にかけた結果、私とは違う方のインド料理を選んでいた。

前菜にはスモークサーモンとサラダ、次に芋のスープが運ばれて来た。英国というだけで正直期待していなかったが、思いがけずしっかり美味しい。






そしてメインが運ばれてきた。例のインドイケおじによるとカレーみたいな料理らしいが、私の目で見る限り完全にカレーである。料理の名前は違うが、妻氏のメインも完全にカレーで、しかも見た目がほぼ同じである。ただ、日本のインドカレー屋で出てくるようなカレーとは全く違って、インド人がインド人の為に作りました感満載のスパイスゴリゴリ系カレーだった。妻氏とカレーを分け合ったら、見た目は同じでも確かに味が違う。


これが妻氏オーダーのメイン料理


これが私がオーダーしたメイン料理。

どちらも日本の一般的なカレーの激辛ぐらいの辛さながら、横にある付け合わせが結構甘くて、それが良い具合に中和させてかなり美味しい。辛い物があまり得意ではない妻氏もこれと一緒なら食べられると言っていた。


どちらも私の機内食史上ぶっち切りの美味しさ1位だった。普通に美味しい店で出てくるようなカレーだ。やはりカレーは人類の3大発明の1つであり、英国での食事はカレーか中華に限るという考えがより深まった瞬間だった。カレーを発明したインド人様々だ。その後はひたすら寝たかったので、デザートとお酒を少々飲んで、椅子をベッドにして横になって寝た。


ロンドンからムンバイまでは結構遠くて9時間ぐらいかかるので、扉を閉めてしっかり熟睡出来たのが良かった。結論、ブリティッシュエアウェイズのインド路線のビジネスはイケる。今後も機会が有れば是非使いたいと感じた。結果論だが、この旅の中で最も快適な移動だった。


飛行機はほぼ定刻通りインド時間の23時半頃にムンバイに到着した。インドの地に降り立つのは初めてだ。結構空港も綺麗だった。が、ロンドンではインド風味だったのが、ここはしっかりインドだった。夜の12時前だというのに、活気があり過ぎるというか騒がし過ぎる。


トランジットの為の手荷物検査場に向かい、案外普通にトランジット出来た。そもそもトランジットする人が我々含め数人だったというのもあるが、もうちょっとインドクオリティに引っ張られるか?と若干旅の面白ネタを期待しつつも普通に終わった。


次の香港行きキャセイパシフィック航空660便は1:25に出発する。あまり時間が無い事は分かっていたし、トランジットゲートの係員にもう搭乗が始まっているから急ぐように言われたので焦り気味で行ったが、搭乗など1ミリも始まっていなかった。焦って損した。ゲートからラウンジまでも結構遠かったので、免税店でスパイスを買ったり、たまたま無料で置いてあった新聞に戴冠式の事が書いてあったので、全く何と書いてあるか分からないが、記念に貰ってその辺の椅子に座って搭乗開始まで待っていた。


現地のヒンディー語?で香港はこう書くらしい


いざ搭乗となった時、ここでインド人の適当クオリティに振り回される事になった。香港までの機体にはファーストクラスが付いている事が事前の座席指定で分かっていた。妻氏と横並びで座席を事前にしておき、ロンドンで発券された搭乗券をスキャンすると、ピーと警告音が鳴った。妻氏も同様だ。私は過去に搭乗口で券を出すと、ピーと鳴ってビジネスの座席に変わったという経験を何回かしている。その時と全く同じ状況だ。もしやこれはビジネスからファーストへ格上げか?と期待していたら、係員に「座席が変わるので、ここで少し待っておくように」的な事を言われた。そして、これが新しいeチケットの控えなので大事に持っておくようにとシワシワの紙ペラを渡された。この期に及んでは特典航空券の最終区間で香港まで行くだけなので、それを受け取っても見る事なく内心結構期待しながら持っていたら、新しい搭乗券と共に「この前の席2席分は既に指定されているので各々新しい席に変えた」と何故か同じビジネスの後ろの方の席で、しかも妻氏とは結構離れた所に当てがわれ、ロンドン出発前に指定して発券までしてあるのに、既に指定されているとは何事かね?しかも離れてるし座席指定の意味とは?と思いつつ、あれこれ言っても仕方ないので乗り込むと、横が超絶ワキガ臭のおっさんで悶絶した。大型の飛行機で1列2列1列の贅沢使いな空間でも漂うワキガ臭。妻氏の横もワキガのおっさんだったらしい。最悪だ。香港までの5時間、幸いにもムンバイ香港便は深夜便で、疲れも溜まりまくっていたので、横が妻氏ならお互いこんな事は無かったのにと思いつつ、機内食も早々に終えて離陸後香港到着直前まで不貞寝を決め込んだ。



ちなみに、先程ゲートで大事そうに渡されたeチケット控えらしい紙ペラをなんとなく見てみると、全然知らないインド人と思しき誰かの自分のとは全然違う旅程が記載されていた。シンプルになんでやねんと思った。係員はロンドンで発券された香港行きの搭乗券を破ってゴミ箱ではなくその辺に豪快に投げ捨てていたし、訳の分からんシワシワ紙ペラを渡された挙句、謎の席変更でワキガオヤジと対峙する事になり、2時間弱のインドでもインドはインドだった。ただ1つスパイスを買えたのは良かった。



飛行機は定刻通り10時前に香港国際空港に着陸した。次の羽田行き日本航空26便は15:15に出発するので、それなりに時間がある。荷物も香港までの預け入れだったので、一旦香港に入国して荷物を回収し、空港すぐ近くの東涌までバスに乗って中華料理の調味料等、食料品の買い出しに行った。


買い物を終えて空港へ戻り、荷物を預けた。我々平民は香港羽田の短距離区間など当然エコノミーだが、会員ランクのお陰で有難くも毎度お馴染み、私の香港国際空港でのルーティーンであるキャセイのラウンジ・ピアへ直行し、シャワーを浴びて、昼ごはんを食べて、中国茶で一服して、一番奥の静かな仮眠スペースで豪快に寝た。こういう時に出張が多いとラウンジが使えるようになって有難い。



定刻通り飛行機は出発した。これまでの長旅を考えたら、約4時間のフライトと言えど、最早東京まで帰って来たも同然だ。飛行機は定刻通り羽田に着陸し、荷物を回収したら即帰宅だ。飛行機とラウンジで豪快に寝たとは言え、やはり移動しながらの仮眠である。羽田に着いた後は出来るだけ歩きたくない。幸い自宅の割とすぐ近くに向かうリムジンバスの出発が近かったので、バスとタクシーを乗り継いで帰宅した。家に着いた瞬間疲れが爆発し、荷物解きも程々に風呂に入って即死した。


やはり欧州は良い。これが6回目の渡欧だったが、何度行っても良い。高級な文化、美味しい食事、絵になる街並み、どれを取っても良い。物価が高い事など、10日ぐらいなら気にしない。それを上回る経験や感動が得られるからだ。

妻氏は今回の旅で初めてドイツに足を踏み入れ、結構ドイツも気に入ったらしく、次はドイツにしっかり行ってみたいと言っている。私は2015年に南ドイツに行っているが、その時は一人旅で感動を共有する相手がいなかったので、思い出の更新に次の欧州はドイツ中心かなと思っている。それに今回逃したビルバオのZarateをねじ込めれば最高だ。もし次もビルバオへ行けば、5/7の割合でビルバオに行く事になる。我ながら結構なビルバオ狂だ。