三浦半島油壺湾 | 白兎の地図と歴史の巡検記

三浦半島油壺湾

2008年02月25日~2008年02月27日掲載


白兎の地図と歴史の巡検記

浸食谷の沈水による狭い湾内は油を流したように波穏やかである。ヨットハーバーとして有名だが、国土交通省国土地理院の験潮場が設置され、毎日水位測定が行われている。日本水準原点に送るデータや、地球温暖化による海面上昇、地震予知等に資する重要なところなのである。


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●京浜急行とバスを乗り継ぐゆったり旅
 旅ジャーナリスト会議の会員である、(有)ブルボンクリエイション小出文彦氏が企画・制作し、会員の多くが執筆と写真協力した、『新・全国フリーきっぷガイド‘07~‘08』(人文社発行) の中から、京浜急行電鉄(鈴木龍生記)のガイドを参考にしよう。京急品川駅で「三浦半島1DAYきっぷ」(1900円)を購入、特快で三崎口駅まで約1時間余のゆったり旅である。乗車して走り出すとすぐに気がつく。なぜか車内がゆったりしており、騒音も振動も感じない。
 鈴木氏によれば、「明治32年(1899)日本で3番目、関東では最初の電車として、生まれた時から標準軌1435mのレールで走り続けており、軌間で考えると新幹線などは孫みたいなもの」と評している。そのとおりの実感でスピードこそ違うが、新幹線のぞみの気分といってもよい。1DAYフリーきっぷの特典をあらためて見てみると、京急バスは金沢文庫以南で全線乗り放題のほか、優待割引となる施設が色々とある。三浦半島のチラシを見ながら、あれこれ計画を練るのも旅の楽しさである。


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●三崎口駅から京急バスで油壺へ
 終点三崎口駅前からは各方面へのバス路線が多くある。電車から降りた観光客の多くは、城ヶ島や三崎港へのバス停に並ぶ。やはり城ヶ島の景色と日帰り温泉、そしてお目当ては三崎魚市場のマグロなのであろう。それに比べ油壺へのバス停は心なしか寂しい。バスは約20分間隔で運行されており、結構便利である。フリーきっぷを見せるだけで何処でも乗降できるのも便利である。バスは三崎口駅前を出発すると、15分位で終点の油壺に到着する。暖冬なのであろうか1月だというのに、菜の花や梅の花が咲き、畑では農作業をする姿も見られる。沿道には所々マグロの料理が食べられるお店の看板が目について途中下車したくなる。
 終点油壺のバス停(写真右)は、何と立派な公衆トイレの建物の真ん前である。観光地トイレの充実は筆者の取り組んでいるテーマの一つであり、このような光景を見ると心なしか嬉しいものである。しかし、折り返しバスの発車場所前には、昔の駄菓子やのような古いおみやげ屋が2軒並んでおり、それぞれにおばあさんがいるだけである。店を覘いても、どうも売れそうにないみやげ物で、なんとも侘しい光景である。


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●国土交通省国土地理院油壺験潮場
 バス停から約100mほどのところに験潮場入口という標識が立っている。足元の危険な階段状の狭い道を下りて行くと、ほどなく一等水準点(写真右)に突き当たる。ここは、全国に設置されている基準水準点83点の一つで№.26である。昭和5年(1930)に設置され、標石上面が東京湾平均海水面からの高さ(標高)を表わしている。その高さは16m6905となっている。



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 さらに下っていくと海となり、そこに験潮場が設置されている。北緯35度9分37秒、東経139度36分56秒に位置し、明治27年(1894)7月から観測が開始された。験潮場は2棟あって奥にあるレンガ造りのほうが最初の験潮場(写真左)、手前が新しい験潮場(写真右)である。古い験潮場には「建設省国土地理院油壺験潮場」という古びた木の看板が掲げられている。
 現在は手前の新しい建物が使われており、館内には海面の上がり下がりを自動的に、精密に記録する験潮儀が設置されている。この記録は高さの基準を決めたり、土地の変動や地震予知のために非常に大切な資料になる。我が国は明治政府が国土の測量を始めたとき、東京湾の霊岸島験潮場のデータを使用していたが、関東大震災後は油壺験潮場のデータを基準としている。
 毎日水位観測を行い、東京都千代田区永田町1―1憲政記念館構内にある、日本水準原点の基準値に使用されている。当初は25mであったが、関東大震災による地盤沈下と潮位の変化により86㎜修正されて、24m4140となり現在に至っている。この基準により全国の標高が定められ、富士山は現在の3776mとされているのである。また、毎日のデータは海岸昇降検知センターにも送られ、気象庁や海上保安庁、全国の自治体による験潮データと併せまとめられている。最近の地球温暖化による海面上昇や地震予知などに不可欠な資料となっているのだ。


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●京急油壺マリンパーク  験潮場からさらに100mほど足を延ばすと小網崎の先端にマリンパークがある。1DAYフリーきっぷを提示すると、入園料大人1700円が1000円になる。ここは昔、三浦氏の本拠、新井城があったが、三浦道寸(義同〈よしあつ〉)のとき、永正15年(1518)北條早雲によって滅ぼされた。この城跡に油壺マリンパークという海のレジャーランドがある。360度ぐるりとドーナツ型の大回遊水槽には、全長3mのサメ「シロワニ」が遊泳していたり、色々な魚の餌付けが見られる。大海洋劇場ファンタジアムでは、イルカ、アシカショーやキタイワトビペンギンなどが身近に見られる。しかし、油壺の特徴的な物といえば、「海洋深層水」であろう。このマリンパークでは海洋深層水を利用した世界初の展示施設「海洋深層水館D・S wonder」が見どころである。






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●21世紀の水「海洋深層水」
 近年、様々な分野から「海洋深層水」が注目されている。これは、大陸棚より沖合いで光合成に必要な太陽光が届かない、水深200m以上のところにある海水である。極海の海域で冷えて比重が重くなった海水・ブルームが、海底に沈みこみ長い年月をかけて、一度も大気に触れず何世紀もかけて地球を回っていると言われる。低音で細菌がなく生物に必要なミネラル等を豊富に含んでいる。飲料水、食料品、医療、健康、水産業、エネルギー等々多方面での利用が期待されている。油壺の取水設備では、三浦沖約5㎞、水深330mから取水した海洋深層水は原水、ミネラル水、塩水、淡水、ミネラル塩水の5種類に分けられる。このような施設は試行も含めて全国に約30カ所あるが、ここは相模湾で陸地より至近の海底から取水できるという利点がある。


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海洋深層水露天風呂効用書と名物マグロ丼1200円


●海洋深層水の利用例
 京急油壺マリンパークに隣接して、海洋深層水の取水施設がある。その隣りのホテル京急油壺観潮荘では、海洋深層水の露天風呂があり、日帰り入浴もできる。1DAYフリーきっぷを提示すると、入浴料1000円が2割引となる。この露天風呂の特徴は、海風を吸入する「空気浴」、太陽の光を浴びる「日光浴」と海洋深層水による「海水浴」を同時に行える。この温浴はタランソラピー(海洋療法)としても優れているといわれ、アトピー性皮膚炎などに効用があるとされる。色々な入浴方法が楽しめるが、実際にちょっと舐めてみると正しく塩味である。その他、海洋深層水を利用した飲料水や健康食品、日本酒、焼酎、水産加工品、お菓子類等々お土産品も豊富である。21世紀健康志向の高まるなか、海洋深層水の利用が注目されるであろう。海に囲まれた島国の日本だからこその研究開発であり、大いに期待したいと思う。


●おわりに
 旅ジャーナリスト会議では、旅と地球温暖化というテーマに取り組んでいる。海面上昇による色々な出来事も報告されているが、今回、水位観測をしている油壺験潮場を訪ねたところ、思わぬ副産物を得た。海洋深層水である。これからも、海面上昇について注目していくとともに、海洋深層水の行く末にも関心を高めて行きたいと思う。

おしまい