その虐殺記念館にあったのは。

白骨死体ではなく、
無数の白いミイラであり。



私はそれにひどく驚き、怯えますが。



暫くして私は、死蝋ではないか、

と気付きます




死蝋とは、
ミイラの一種とされることも多いが、

乾燥した場所で、
水分がないが故に、
腐敗菌が繁殖しないことで出来る、
一般的なミイラと違い、

水中や土中などの空気のないところで、
空気がないが故に、
腐敗菌が繁殖しないことで、出来るもの。


この、ツチ族の人々が死蝋化したということは。


無論、
雨季だったせいで、
土地が水浸しだったということもあるでしょうが。


通気性が一切ないぐらいの、
途轍もない密度で、

死体が埋められていたせいもあるのかもしれない。





何れにしても。


その死体が、腐敗せず、
蝋化したことで。

この、
異様な展示が出来上がった。




埋められた時の姿形を、留めたまま。
死臭を、漂わせたまま。

その色だけを、真っ白に変えて。







私が暫くの間、
それをただ黙って眺めていると。


案内人が、声を掛けてきます。


振り向くと、

右手を顔の前に上げて、
人差し指を曲げ、動かす。



ああ、私は理解します。


写真を撮れ、ということか。




この現状を、伝えるために。
写真を撮ってくれ、ということか。



私はカメラを取り出し、
それを構えます。



しかし、そこで、指を止め。
少し考えて。


カメラを、仕舞います。





違う、と思います。


この写真を私が撮り、
それを誰かに見せるのは、


違う。






私は首を振り。

案内人に合図して、
その部屋の出口に向かいます。





外の世界は明るく。

私は少し息を吐く。


出てきた部屋の錠を下ろした、
管理人は。

続けて隣の部屋の錠を外す。


その扉の向こうにあったのは。


全く同じ世界。


白い死体が並ぶだけの部屋。
死臭が充満するだけの部屋。


その隣も、その隣も。



ほとんどの教室が、そうでした。


ただ、最後の幾つかだけは、
テーブルの上に死体が置かれているのは同じですが、
その内容が、異なりました。




そこにあったのは、




無数の白骨。





積み重なった死体の上の方にあって。

多くの空気に触れられたのか、
水に浸からずに済んだのか、



腐敗菌が繁殖することを得て、
皮膚を失うこと得た、

死体達。



所狭しと、
頭蓋骨や大腿骨が並べられたその部屋は、


死体の数は多い代わりに、
死臭は、薄く。









その形を、その臭いを。
まだまだこの世に留めておかねばならぬ、

色々なことを訴えかけてくる、

多くの死蝋達に比べて。



その白骨達は。



死臭を発せず。



ただ静かに、そこにありました。