定刻より三時間ほど早く、
夕方になる前に列車は昆明駅に着きました。

予定より大幅に遅れることはしょっちゅうでも、
早く着くことは滅多にない。

地獄からの解放が早まった幸運に感謝しつつ、
私は昆明の街に足を踏み入れました。


駅前で見つけた宿に入ります。
ドミトリーなどなく、
値段も高めではありましたが、
そこそこ清潔であったこともあり、
私はシングルルームにチェックインします。


とにかく疲労困憊していました。

こういう時に、
無理してドミトリーに泊まるのはよくない。

熟睡してしまうと、
盗難などに遭いやすくなるし、
眠りが浅いと、
疲れが取れず体調を崩しやすくなる。


カップ麺で食事を済ませ、
温水が出ないシャワーで震えながら水浴びし。

すぐにベッドに横になります。


駅からは大きな音が響いて来ます。

中国の大きな駅前は大抵そうですが、
列車の到着を待つ人々が大勢おり、
彼らは、おしゃべり、麻雀や将棋、
そしてカラオケで時間を潰します。

駅前には、カラオケの出店が並ぶ。


無論、夜中であっても、
カラオケは続きます。
そこらじゅうで。

鳴り止まない騒音の中で。

暫く寝付けずイライラしていましたが。

中島みゆきの曲の、
中国語カバーバージョンが聞こえたあたりで、
意識は途切れがちになり。

硬座移動の疲れのお陰でしょう、
その騒音の中でも、
私は熟睡することが出来ました。



翌日早く、
私は街に出ます。


道端の小さな店でお粥を食べた後、
長距離バスターミナルに行きます。

そこから先、
チベットの方角に出る列車はなく、
選択肢はバスしかありません。

寝台は満員だと言われたらどうしよう、
心配しながら尋ねましたが、
その夜発の寝台バスチケットは、
無事に入手出来ました。

夜まで時間が余ります。

特にすることもない私は、
街を歩き始めます。


標高2000mほどにある街、
数日前まで居た香港に比べると随分涼しく、
非常に快適です。

また、
本格的な経済発展が始まる前ではありましたが、
この国の常でしょうか、
インフラ投資がかなり先行しているようで。

道は広く、歩道橋なども整備されています。

その上、香港よりは遥かに歩行者が少ない。

とにかく歩きやすい街でした。

通りをブラブラ散歩する。
疲れたら道端のベンチに腰掛け、
麻雀に興じる男達の様子を眺める。

腹が減ったら小さな食堂に入り、
安い水餃子をゆっくり口に運ぶ。

店の女主人と軽口を交わす。


日本を離れて、約十日。

やっと、旅が始まったような気持ちになります。