前回武蔵大國魂神社周辺の歴史➀ ②を知りました。

大雑把に振り返りますと…青字は資料館の資料からの抜粋

・30000年前：人が立川段丘面に住み始める

・2300年前：多摩川沿い低湿地で生活始まる

　縄文時代からの漸次的移行

・4世紀：台地上に集落できる

・5世紀：台地上に集落なくなる

実質的な縄文時代の終わりかな

・6世紀：府中崖線に小古墳、崖線と低湿地に集落

これが稲作ベースのコロニー誕生でしょうね

6世紀なので遅いです

・7世紀前：小古墳の築造が終了

・7世紀中：上円下方墳（武蔵府中熊野神社古墳）つくられる、台地上に村できる

ここから本格的な近畿大和政権の出先機関として機能か？

・7世紀後：国司館できる、東山道武蔵路・国分寺できる、台地上に井戸・町（竪穴住居）できる

　　　　　　　この頃に武蔵大國魂神社が出来たのでは？

・8世紀前：武蔵守が任命される、武蔵国衙できる

・8世紀中：国分寺完成、武蔵の国が東山道から東海道へ

　　　　　　　ここがピークでしょうね

・9世紀中：水害、富士山噴火、大地震

・10世紀前：争乱はじまる

　　　　　　　近畿政権のコントロールを離れてしまったようです

・10世紀末：国衙が衰退消滅、竪穴住居減少

・11世紀：竪穴住居からカマドが無くなる

・12世紀：台地上で人間の痕跡が消える

この後は在地武家勢力の活動が盛んになり、彼らの手によって六所宮（武蔵大國魂神社）が守られていったようです。

いわゆる弥生文化は、当地（多摩川沿岸）では6世紀から始まったようです。

その初期の弥生文化が群衆墓を作り、その後7世紀中（白村江の直前？）になって新勢力が西からやってきて武蔵府中熊野神社古墳、国司館、武蔵大國魂神社（当時は六所宮）を作ったという流れです。

つまり武蔵大國魂神社周辺の弥生時代の進行には３段階あって

１）6世紀～7世紀前…小古墳を築造した時代

２）7世紀中…………武蔵府中熊野神社古墳を築造した頃

３）7世紀後…………国司館、武蔵大國魂神社を築造した頃

という風に分類できると思います。

どう見ても２）と３）は同族ですね。

１）は弥生時代の文化を持ち、他所から入ってきた感じはします。が１）と２）３）とは異民族だと思います。

前回の武蔵大國魂神社の坪宮のところで演繹したように、武蔵大國魂神社の前から兄多毛比が当地に入っていて鷲宮を立てていたようなので、１）とは鷲宮（兄多毛比）のグループのような気がします。

鷲宮神社は埼玉県の最北端、利根川に近い立地でここ武蔵大國魂神社とはずいぶん離れています。利根川（古代の利根川は東京湾に注いでいた）を下り東京湾に出てから多摩川を遡上してここへたどり着いた、のかな？

ここが不思議なところで、荒川流域を迂回し避けているように見えるのですよ！

やっぱり、鷲宮（兄多毛比）は氷川とは同体のようでいて、何らかの対立関係にあったと疑わざるを得ません。

そういった事情からか6世紀～7世紀前に鷲宮が中心になって開発した多摩川北岸地域に小古墳を築造する時代があり、その後に新勢力（近畿奈良政権）がやってきて武蔵府中熊野神社古墳、国司館、武蔵大國魂神社を建てたのだと思います。

武蔵府中熊野神社古墳に葬られた人物はおそらく7世紀前にここへやってきて、氷川系の作っていた小古墳をやめさせ7世紀中に亡くなったのではないでしょうか。

ただ、坪宮の説明によれば「兄多毛比は初代武蔵国造」といった具合に持ち上げているので、決して無視できる勢力ではなかったと思われます。が、武蔵大國魂神社はそもそも近畿奈良政権の出先機関として築造されていますので、そこの主祭神が兄多毛比となるということはあり得ないわけで、事実兄多毛比は武蔵大國魂神社の主祭神ではありません。

武蔵野に進出したい近畿奈良勢力に協力した鷲宮（氷川）勢力を納得させるために、兄多毛比を坪宮として祀ったということだと思いました。

前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのは

■谷保（やぼ）天満宮・・・東京都国立市谷保５２０９

谷保天満宮は前回レポートした武蔵大國魂神社の西2kmに立地しています。

重要なのは古代の残堀川に面しているという点です。

多摩川の洪水から守られる立地であり、狭山丘陵へと繋がる古代残堀川を抑えるポイントでもあります。

まさに国府、武蔵大國魂神社から見て「奥の院」といった存在だったと思います。

鳥居は甲州街道に面し、北向きです。武蔵大國魂神社と同じです。

写真の奥の方向が南で多摩川河岸段丘の崖下へと降りてゆく格好になりますので、通常なら多摩川方向に鳥居を作るはずです。

ですが北向きに鳥居が作られているということは、武蔵大國魂神社と同じく多摩川沿岸から北に向かって進出するために作られた入植地だったことを表現していると思います。

奥に見える鳥居をくぐると一段下がって境内です。

「下り宮」ということですが、単なる河岸段丘ですね。

鳥居は北向きなのに拝殿は東向きです。

武蔵大國魂神社の方を向いています。

牛の石像

菅原道真のエピソード

牛と言えば牛頭天王＝スサノオなのですが…

拝殿。至る所に菅原道真の梅紋

拝殿正面

本殿屋根には千木、鰹木はありませんが、イメージは氷川系

本殿の真後ろに古宮

左から天照、熊野（大幡主、イザナミ）、日吉（大山クイ）、妙義、稲荷（伊勢外宮様）

注）祭神解釈は百嶋神社考古学による

妙義については事情が複雑でして（詳しくは群馬県安中市碓氷神社をご覧ください）、

・丹生津姫（波己曾神社）

↓859年以降のどこかで入れ替わり

・妙義大権現（妙義神社）

現在境内由緒では豊受大神が祭神となっている。

といった具合です。

859年以降のどこかで妙義大権現なる正体不明の神様に入れ替わっているというのがよく分かりませんね。

妙義大権現という名前からして仏教関係と思われるので、近畿大和朝廷から派遣された群馬地域監理官が丹生津姫をどかせて据え付けた祭神なのかもしれません。

群馬の妙義山で丹生津姫→妙義大権現の入れ替えが起こったのが859年以降、ここ谷保天満宮が7世紀中頃と考えると谷保天満宮に入っている妙義神社の方が早いことになります。まぁ妙義がここ谷保天満宮から上陸して群馬の妙義神社へ達した、とまで言うつもりもありませんが…

谷保天満宮の現在の主祭神は菅原道真（845～903）で、谷保天満宮の成立7世紀中後よりも200年ほど新しいです。当然谷保神社成立の当初は別の祭神だったのでしょう。

それが上記の古宮の誰か、中央の大山クイが可能性高そうです。

大山クイと鴨玉依姫（大幡主の孫）の間には崇神が生まれています。

埼玉県立歴史と民俗の博物館で演繹したように「武蔵大國魂神社を中心とするコロニーは近畿奈良政権の送り込んだ者たちによってつくられた」という結論に従えば、藤原のアイコン・崇神の父がここ谷保天満宮に祀られているのは違和感ないです。

またここから北方に離れた狭山丘陵に大山クイを祀る神社がまま見られることは、柳瀬川を遡上するシリーズで演繹したように残堀川を遡上し狭山丘陵にたどり着いた武蔵大國魂神社勢力がいたという推論に結びつきます。その論拠となるのが、大山クイを祀る神社が狭山丘陵に見られたという事実なのです。

多摩川沿岸の武蔵大國魂神社から武蔵野台地を北へ侵入していった輩がシンボルとした神様が大山クイで、その第一歩がここ谷保八幡宮なのかな？

古宮に向かって左には

三郎？

古宮に向かって右には石碑があります。

祭神名が刻んであるらしいのですが、よく分かりません。

掲示板によると

903年に亡くなった菅原道真を偲んで息子・道武朝臣が祀った、と。

道武朝臣が亡くなって三郎殿として祀った、と。古宮の左にあったのは三郎殿の石碑だったのですね。

という風に菅原道真以前については何も語っていません。

つまりこの谷保天満宮が「天満宮」になる前については古宮を考察するしかない、ということです。

#189谷保天満宮