
風が通る、
古い宿。
暑さが少しやわらぎ、
窓を開けたくなる季節。
縁側と庭。
障子と欄間。
川に沿う客室と、木の渡り廊下。
古い宿に残っているのは、
昔の意匠だけではありません。
外と内を完全に分けず、
光、音、匂い、空気を少しずつ招き入れる場所があります。
エアコンを止めたくなる初秋に、
建物の中を流れる風まで味わいたい6つの宿を選びました。
BETWEEN INSIDE AND OUTSIDE
古い建物の心地よさは、
少し曖昧な境界にある。
庭を眺めるための広縁。
離れと母屋をつなぐ回廊。
川音が届く窓辺。
部屋の中にいながら、外の気配を完全には遮らない場所です。
便利さだけで選べば見落としてしまう余白を、
初秋の風と一緒に受け取ってみます。
画像は記事テーマをもとに作成したイメージビジュアルです。実際の宿、客室、庭園、建築、温泉、周辺景観とは異なる場合があります。
FOUR PASSAGES OF AIR
風を感じる、4つの場所
VERANDA|庭と部屋のあいだにある広縁
CORRIDOR|離れや浴場へ続く木の回廊
WATER|川音や池の気配が届く窓辺
TOWN|宿の外へ続く温泉街と古い町並み
01 / CORRIDORS THROUGH THE GARDEN
別所温泉 旅館 花屋
庭を渡りながら、
風景の変わる回廊を歩く。
別所温泉の山裾に、木造の建物が点在する老舗旅館です。
客室、食堂、温泉をつなぐのは、池と庭園を巡る長い渡り廊下。目的地へ最短距離で向かうのではなく、木々や水面を眺めながら歩く時間そのものが滞在になります。
初秋には、廊下の途中で少し立ち止まり、木の匂いや草の気配を感じたいところ。
部屋だけで完結せず、館内を歩くことで建築の心地よさが見えてくる宿です。
AIR|庭園を巡る木の渡り廊下
SOUND|池、水車、木々の気配
TIME|到着後と、朝風呂へ向かう途中
02 / WINDOWS BY THE RIVER
修善寺温泉 新井旅館
川音が、
窓の外との距離を近くする。
修善寺の桂川に沿って、明治期から昭和初期の木造建築が残る宿です。
川に面した客室では、対岸の緑や竹林とともに、せせらぎや鳥の声が届きます。
古い部屋を味わうとき、目に入る床柱や障子だけでなく、外から聞こえる音にも耳を澄ませたいもの。
窓辺に座り、温泉街を歩く人の足音や川の流れを聞く。建物と町の境界がゆるやかになる滞在です。
AIR|桂川に面した窓辺と広縁
SOUND|川のせせらぎと鳥の声
WALK|竹林の小径と修善寺温泉街
03 / GARDEN OR RIVER
会津東山温泉 向瀧
中庭の風か、
湯川の音か。
会津東山温泉で、斜面と中庭を囲むように木造棟が重なる文化財の宿です。
客室には、中庭を望む部屋と湯川に面する部屋があります。同じ建物に泊まっても、窓の向こうにある景色と音で、朝の印象は変わります。
庭の木々が揺れるのを見るか、川の音を聞きながら過ごすか。
部屋の豪華さだけではなく、どちら側の外気に近づきたいかで客室を選びたくなる宿です。
AIR|中庭を囲む木造建築
SOUND|湯川の流れ
ROOM|庭向きと川向きから選ぶ
04 / MERCHANT HOUSE IN HIDA
料亭旅館 八ツ三館
飛騨の朝を、
古い商家造りで迎える。
飛騨古川に佇む老舗旅館。明治38年に再建された「招月楼」には、飛騨の商家造りが残されています。
部屋ごとに間取りが異なり、囲炉裏や木の意匠、少し暗さの残る空間にも、古い建物ならではの時間が流れています。
朝は、山間の空気と鳥の声を感じながら一日を始める。
宿を出たあとは、瀬戸川と白壁土蔵が続く飛騨古川の町へ。建物の中を流れていた静けさが、そのまま町歩きへ続いていきます。
AIR|飛騨の山間にある澄んだ朝
SPACE|明治期の商家造りと囲炉裏
WALK|瀬戸川と古い町並み
05 / VERANDA OVER THE RIVER
三朝温泉 旅館 大橋
広縁に座り、
川と山のあいだで休む。
三徳川に沿って建つ、昭和初期の木造旅館です。
客室の多くが文化財として守られ、広縁から川と山を眺められる部屋もあります。
窓の外へ出なくても、川の流れや湿った山の空気を想像できる場所。少し冷えたら、自然の岩間から湯が湧く名物風呂へ向かいます。
風、川、温泉。建物の内側だけに閉じず、土地の自然と一緒に泊まる感覚が残ります。
AIR|三徳川に面した広縁
SOUND|川のせせらぎ
BATH|岩間から自然に湧く温泉
06 / GARDEN, CORRIDOR & TOWN
城崎温泉 西村屋本館
庭から回廊へ、
回廊から温泉街へ。
江戸・安政年間創業。日本庭園を囲む客室と、数寄屋建築の別棟「平田館」を持つ純日本旅館です。
平田館は小さな庭を囲む回廊式。部屋ごとに角度や高さが異なり、同じ庭を別の景色として見せます。
宿の中で庭を眺めたあとは、浴衣と下駄で城崎の外湯へ。
庭、廊下、玄関、柳並木。古い宿の内側にあった余白が、そのまま温泉街の夜へ続いていきます。
AIR|日本庭園を囲む客室と回廊
SPACE|一部屋一景の数寄屋建築
WALK|浴衣と下駄で巡る城崎の外湯
CHOOSE A PASSAGE
どこから、風を招く?
別所|池と庭園を巡る渡り廊下。
修善寺|桂川の音が届く窓辺。
会津|中庭と湯川、二つの外気。
飛騨古川|明治の商家造りと山の朝。
三朝|川と山に面した広縁。
城崎|庭を囲む回廊から温泉街へ。
LET THE OUTSIDE IN
窓を開けると、
宿の外まで部屋になる。
古い宿は、最新の建物のように、外の音や空気を完全に遮断しないことがあります。
階段、段差、少し暗い廊下、木のきしむ音。便利さだけを求めれば、気になることもあるかもしれません。
けれど、初秋の風が入る日に、
庭の葉音や川の流れまで部屋に招き入れてみる。
その余白こそ、
古い宿に泊まる理由になるのだと思います。
REFERENCE
記事作成にあたり、各宿泊施設の公式情報、文化財・建築情報、および宿泊施設の掲載情報を確認しています。
※古い木造建築には、段差、階段、低い天井、音の響き、気密性や空調方式の違いなどがあります。また、窓の開閉可否や虫の状況は、客室、季節、天候によって異なります。最新の設備、客室条件、改修・休館、交通情報をご確認ください。