温泉は、
宿の中だけにある?

浴衣に着替え、
手ぬぐいと部屋の鍵を持つ。

玄関で下駄を履き、
湯気の上がる町へ出る。

せっかく温泉旅館に泊まったのに、
なぜ宿の風呂ではなく、町の湯へ向かうのでしょう。

豪華な露天風呂や、
客室専用の温泉とは違う時間があります。

道を歩き、暖簾をくぐり、
地域の人が守る湯を借りる。


6つの宿を起点に、
客室の外まで続く温泉旅を見ていきます。

THE TOWN AS ONE LARGE BATHHOUSE

宿を出ることで、
温泉街が滞在の一部になる。

宿の中に大浴場、露天風呂、貸切風呂が揃っていれば、外へ出なくても温泉を十分に楽しめます。

それでも外湯のある町では、浴衣姿の旅行者が道を歩き、異なる湯を巡ります。

共同浴場を地域の人と使う町。宿泊者だけに渡される鍵で九つの湯を開ける町。旅館同士が露天風呂を共有する町。

温泉を一軒の宿へ囲い込まず、
町の中へ分けて置く。


その仕組みによって、道や商店、橋、夜の灯りまで、温泉体験の一部になっていきます。

画像は記事テーマをもとに作成したイメージビジュアルです。実際の温泉街、宿、浴場、建物、景観、人物とは異なる場合があります。

EDITOR’S NOTE

宿の風呂が充実するほど、
町を歩く理由は失われるのか。

外湯には、旅館の大浴場ほど整った設備がないこともあります。

湯が熱い。洗い場が少ない。石けんを使えない。営業時間や清掃時間がある。混雑していて、ゆっくり入れない。

けれど、その不便さは、そこが観光客だけのためにつくられた温泉ではないことの表れでもあります。

町の湯へ入ることは、
地域の日常へ少しだけ参加することなのか。


利用のルールや背景まで含めて、6つの温泉街を歩きます。

FOUR PERSPECTIVES

外湯を読む、4つの視点

KEY|誰が、どのように入れるのか

WALK|宿から湯まで、どんな町を歩くのか

RULE|地域の湯を借りるための作法

BOUNDARY|宿と温泉街の境界はどこにあるのか

01 / THE TOWN AS ONE RYOKAN

城崎温泉 西村屋ホテル招月庭

宿は客室。
外湯は、町の大浴場。

城崎温泉には、「まち全体が一つの大きな宿」という考え方があります。

駅は玄関、道は廊下、旅館は客室、外湯は大浴場。飲食店は食堂、土産物店は売店として、温泉街全体で旅行者を迎えます。

町には趣の異なる七つの外湯があり、浴衣と下駄で歩ける距離に点在しています。

西村屋ホテル招月庭にも大浴場や露天風呂があります。それでも、宿の温泉だけで滞在を終えず、川沿いの柳や橋、商店の灯りを眺めながら外湯へ向かう。

温泉が町へ分散しているからこそ、歩く時間そのものが、城崎に泊まる体験になります。

KEY|趣の異なる七つの外湯

WALK|浴衣と下駄で、川沿いの温泉街へ

BOUNDARY|道までを宿の廊下として考える

 

 

02 / BATHS KEPT BY THE VILLAGE

野沢温泉 常盤屋旅館

共同浴場を、
地域の人から借りて使う。

野沢温泉には、村内に十三の外湯があります。

これらは観光施設として一括運営されているのではなく、江戸時代から続く「湯仲間」と呼ばれる地域の人々によって管理されてきました。

旅行者にも開放されていますが、入口の賽銭箱へ維持管理のための寸志を入れ、地域の共同浴場を使わせてもらいます。

常盤屋旅館の隣には、野沢温泉を象徴する外湯「大湯」があります。旅館にも複数の自家源泉がありますが、外湯を巡れば、湯の温度や建物、地域との距離が少しずつ変わります。

観光客のために用意された湯へ入るのではなく、暮らしの中にある湯を借りる。その感覚が、野沢温泉の外湯巡りには残っています。

KEY|村内に点在する十三の共同浴場

RULE|湯仲間が守る湯へ、寸志を入れて入浴

QUESTION|旅行者は地域の湯をどう丁寧に使えるか

 

 

03 / NO BATH INSIDE

小石屋旅館

宿に温泉をつくらず、
町の九湯へ送り出す。

小石屋旅館の館内には、温泉も浴場もありません。

温泉街の宿としては、大きな欠点にも見えます。

けれど、渋温泉へ宿泊した人には、九つの外湯を開けるための鍵が渡されます。浴衣と下駄に着替え、石畳の町へ出て、それぞれ異なる源泉の湯を巡ります。

宿の中へ温泉を囲い込まないことで、旅行者は必ず町を歩くことになります。

温泉のない旅館は、サービスを減らした宿ではなく、渋温泉そのものを大浴場として使うための客室とも考えられます。

KEY|宿泊者だけが使える鍵で九湯を巡る

WALK|浴衣姿で石畳の温泉街へ

BOUNDARY|宿は眠る場所、温泉は町の中

 

 

04 / ONE ONSEN, MANY RYOKAN

黒川温泉 旅館 山河

一軒の風呂ではなく、
旅館どうしで温泉街をつくる。

黒川温泉の入湯手形では、約二十五軒の旅館の露天風呂から、好みの三カ所を選んで入浴できます。

一つの宿が大きな温浴施設をつくるのではなく、それぞれの旅館が持つ露天風呂を温泉街の共有資源としてひらく仕組みです。

入湯手形は1986年に始まり、2026年に四十周年を迎えました。

旅館 山河は温泉街の中心から少し離れた森の中にあり、二つの泉質を楽しめます。そこから別の旅館の風呂へ向かえば、森、川、露天風呂、宿の佇まいが一湯ごとに変わります。

宿同士が競いながら、同時に一つの温泉郷として協力する。その関係を、旅行者は手形を持って歩くことで体験します。

KEY|入湯手形で好きな三つの露天風呂へ

MIX|複数の旅館が、湯を温泉街へひらく

QUESTION|一軒の利益より地域全体を選べるか

 

 

 

05 / THREE PUBLIC BATHHOUSES

道後温泉 大和屋本店

宿の大浴場と、
町の三つの湯を使い分ける。

大和屋本店は、道後温泉本館のすぐ隣に建つ温泉旅館です。

館内には数寄屋造りの大浴場がありますが、一歩外へ出れば、道後温泉本館、椿の湯、飛鳥乃湯泉という三つの公共浴場があります。

木造建築の歴史を感じる本館。地元の人にも親しまれる椿の湯。飛鳥時代の建築を現代的に読み替えた飛鳥乃湯泉。

使われている源泉だけでなく、建物、休憩方法、町との距離が異なります。

宿の湯で静かに休む時間と、商店街を歩いて公共浴場へ向かう時間。二つを使い分けることで、道後温泉の歴史が一軒の旅館だけではないことが見えてきます。

KEY|本館、椿の湯、飛鳥乃湯泉の三館

WALK|宿から商店街と公共浴場へ

CHOICE|歴史、日常、現代性の異なる湯屋を選ぶ

 

 

06 / THE ONSEN PILGRIMAGE

別府鉄輪温泉 山荘 神和苑

一泊では終わらない、
町じゅうの湯を集める旅。

別府八湯温泉道には、約百五十の温泉施設が参加しています。

参加施設へ入り、「スパポート」と呼ばれる帳面に入湯記念印を集める。八十八湯を巡れば、「温泉道名人」として認定されます。

一度の滞在で完成させるには多すぎる数です。

山荘 神和苑には客室温泉や大浴場がありますが、鉄輪の湯けむりを歩き、共同浴場や別府各地の湯を巡れば、宿の温泉とは異なる泉質や暮らしに出会えます。

温泉を楽しむだけでなく、印を集めながら何度も別府へ戻る。温泉道は、町全体を長い時間をかけて知るための仕組みでもあります。

KEY|約百五十湯が参加する温泉道

RULE|スパポートへ入湯記念印を集める

RETURN|八十八湯を目指し、何度も町へ戻る

 

 

SIX TOWNS, SIX WAYS TO BATHE

町の湯との関わり方は、それぞれ違う。

城崎温泉|町全体を一つの旅館として歩く。

野沢温泉|地域が守る共同浴場を借りる。

渋温泉|宿泊者の鍵で九つの湯を開ける。

黒川温泉|旅館同士が露天風呂を共有する。

道後温泉|性格の異なる三つの公共浴場を選ぶ。

別府八湯|印を集めながら、長い時間をかけて巡る。

THE BATH CONTINUES OUTSIDE

温泉は、
宿の中だけにある?

暖簾をくぐり、
宿の風呂へ入る。

それだけでも、温泉旅は完成します。

けれど、浴衣で町を歩けば、
橋や商店、夜の灯り、地域の暮らしまで、滞在の中へ入ってきます。

外湯へ入ることは、
温泉街の日常を少しだけ借りること。


便利さや豪華さだけでは測れない、
町と湯の関係を知る旅になります。

REFERENCE

記事作成にあたり、各温泉街、外湯、共同浴場、入湯手形、温泉道、宿泊施設の公式情報、および楽天トラベルの施設・予約情報を確認しています。

※掲載内容は2026年7月時点の公開情報をもとに構成しています。浴場数、営業時間、定休日、入浴条件、料金、利用できる施設、宿泊プランなどは変更される場合があります。外湯には地域独自の利用ルールがあります。最新情報を確認し、マナーを守ってご利用ください。