酒井順子さんの著書である「甘党ぶらぶら地図」をパラパラめくっていた時の事です。
あるページに目が留まりました。
その一節には、
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京都に行く度に、どうしても食べたくなってしまうものがあります。それは、今宮神社の参道で売っている「あぶり餅」。
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とありました。
文章を読み進めていくうちに、うわぁめちゃめちゃ美味しそう~、私もぜひあぶり餅なるものを食べてみたい!
と気分が盛り上がり、神社参道のある京都 紫野に向かいました(食べ物となると、フットワーク軽いです・・笑)。
調べてみると今宮神社の歴史は古く、平安京ができる以前に遡ります。
都で流行した疫病を鎮めるために祀られた社であり、「玉の輿」の語源となったお玉さん(徳川5代将軍 綱吉の生母、後の桂昌院)にゆかりがあることがわかりました。
お玉さんは、京都西陣にある八百屋の娘として生まれるのですが、母親が地元の有力者と再婚したことが縁となり、侍女として大奥へ上がります。そこで徳川三代将軍家光の乳母だった春日局の目に留まり、家光の側室になりました。
そして男の子をひとり授かるのですが、これが後の5代将軍 綱吉となります。
お玉さんは、大奥の頂点に登りつめ、絶大な権威を得、政策にも大きな影響を及ぼしました。(生類憐みの令など)
またお玉さん(桂昌院)はとても信仰心が篤く、当時廃れていた故郷の氏神である今宮神社の再興に尽力されたそうです。
すごい大出世ストーリーです。
町民から女性の最高位へ駆け上がるなんて、そんな事が起こるのですね。
お玉さん・・どんな女性だったんだろうと強く興味を惹かれました。
当日は、阪急線「四条大宮」駅から上賀茂神社行のバスに乗り、20分くらいで「今宮神社前」バス停に到着しました。
バス停すぐの場所に、美しい朱塗りの楼門が見えます。
いきなりあぶり餅へ直行するのもどうかと思ったので(笑)、まずお参りをすることにしました。
門を一歩入ると境内がぐるりと見渡せます。
太鼓橋や年月を感じさせる絵馬舎、雰囲気の良い石畳の参道・・・そして木々がすぅっと天に向かって伸び、空が広いのです。参道が続く先には趣のある神楽殿が見えます。
境内は明るく、清涼感に満ちていました。
こんな素敵な神社がここにあったんだ~
嬉しく思いつつ見とれていると、月読社へと続く参道から花嫁・花婿さんが歩いてくるのが目に入りました
わぁ、今日は結婚式があるんだ
感激しました。
二人はすぐに奥の方へ行ってしまったので、目撃できたのはほんの一瞬の事。
ナイスタイミングです
食い気に釣られてやってきた私を(笑)、神様はちゃんと歓迎して下さったのでした。
境内にいる間にお宮参りの御祈祷も始まり、祝詞も聞かせてもらえたんです。
御本殿に近づくと、ひゅぅぅ~っと強い風が吹いて、木の葉がパラパラと振ってきました。
日吉大社でも同じことがあったなぁ、と思いつつ手を合わせます。
こちらの本殿は、落ち着いた色合いに金細工が映え、ほぅ~っと見とれてしまう美しい佇まいです。
由緒正しさと品格を感じます。
上賀茂神社の雰囲気に似ているな~と思いました。
お参り後は、摂社・末社を見つつ少しブラブラしました。
阿呆賢(あほかし)さんと呼ばれる重軽石があり、この石を撫でて、その手で体の悪いところをさすれば病気が平癒するとの言い伝えがあります。ご加護を頂けるよう、お願いしました。
一周した後、神楽殿の側に立って御本殿を再び眺めていた時のことです。
「すみません、シャッター押してもらえますか?」
先ほど、御祈祷を受けていたお宮参りの御一行に声を掛けられました。
家族全員で記念撮影をしようとなったようで、大きなレンズ搭載の一眼レフを渡されました。
赤ちゃん、2歳くらいの女の子、ママとパパ、おじいちゃん、おばあちゃんの一行です。
女の子がちょこちょこ歩き回ってじっとしておらず、シャッターチャンスが難しいです。
「はい、写真撮るよ~、みんな揃って!」
しっかりもののママが号令をかけ、全員がぞろぞろと並びます。
その様子がほんわかとしていて微笑ましく、
幸せな素敵なご家族だな
とほのぼの~とした気持ちになりました。
カメラを見つめる全員が、とっても良い表情をされているのです。
3世代揃ってこの今宮神社の神様にお参りができる・・なんて幸せな事でしょうか。
この赤ちゃんの健やかな成長を皆で見守り、何年か経った時写真を眺めながら、
「こんな小さい時もあったなぁ~」
と懐かしく思い出すんでしょうね。
ファミリーの思い出を写し取るお手伝いをさせてもらえて、とても温かな気持ちになりました。
これも神様からのちょっとしたプレゼントだったのかな、と思います。
少しして、神職さんに付き添われて花嫁・花婿御一行も入ってきました。これから神前式が始まるようです。
白無垢姿の花嫁さん、とっても眩しかったです。末永い幸せを心の中でそっとお祈りしました。
思いがけず幸せのお裾分けにあずかり、ほっこりする参拝となりました。
東門を出ると、両側にあぶり餅を提供するお茶屋さんが2軒あります。
「お帰りやす~、どうぞ~」
と双方呼び込み合戦をしていて迷うところですが、私は酒井順子さんと同じく左側の「一和」さんに行ってみました。どちらも一人前500円となっています。
店先に座って頂くこともできますが、寒かったのでお部屋に通して頂きました。
中はちいさなお庭を眺めることのできる、落ち着いた畳敷きの空間でした。床の間にはきれいにお花が生けてあり、趣を感じます。
まず急須が乗ったお盆で日本茶が出されました。これは嬉しいです。
「どうぞ、ゆっくりしてっておくれやす~」
と言われているような安堵感があります。(完全に妄想ですが・笑)
冷えた体が温まるぅ~とほっとしていると、ほどなくしてあぶり餅が運ばれてきました。
これは、店先にて備長炭を使って炙っています。
大きさは親指の先ほど。焦げ目が香ばしく、外はかりっとしていて、中はもちもち。
噛むと、口の中に白味噌ダレの優しい甘みがじゅわっと広がります。
一口がちいさいので何本でもいける感じ。素朴な美味しさでした。
一和さんは、ナント創業1000年だそうです。
昔は今と違って、甘味の種類もそれほどなかったでしょうし、皆お参り後のあぶり餅をそれは楽しみにしていたのではないでしょうか。友人同士、家族同士、ワイワイと心躍る楽しいひと時を過ごしたに違いありません。
お玉さんも町娘だった頃、よくお参り後に立ち寄ったかもしれないなぁ。。
将来の夢を抱きつつ、あぶり餅に舌鼓を打ったかもしれません。
その願いは神様にびっくりするような形で叶えてもらったのでしょう。
身寄りも知り合いもいない、大奥という全く未知の世界へ飛び込んでいったお玉さん。
そこでお玉さんを支え続けたのは、故郷での数々の温かい思い出だったのかもしれません。
だからこそ、女性として最高位へ登りつめた後も、故郷への想いを忘れず、信仰心も持ち続けた。
そして今宮神社が荒れていると知ると、居てもたってもいられず再建に力を尽くしたのではないでしょうか。
そうやったんや、ええ話やなぁ・・
と(全くの想像なのですが)、ひとり感心して頷いてみるのでした。
結論から言うと、あぶり餅よりも今宮神社参拝の方がずっと感動が大きかった。
ま、神様ともいろんな出会い方があるという事で(笑)。