まだ、木枯らしは吹かない。秋の穏やかな晴れの日。私は、うっすらとさす日に誘われて街に出た。
海に近い街。耳を澄ませば、風の悪戯で汽笛が聞こえる街。
アーケードを歩けば、雑多な店があちらこちらに点在する。人々は、右に左にそぞろ歩いている。家族と。恋人と。友人と。
そんな中、1人で歩いていると自分が透明になった気がする。
大勢の中の孤独。
若かりし頃は、それが寂しくて仕方がなかった。1人でいる自分は、どこか欠けているのではないかと思い悩んだものだ。
年を経た今。
欠けている自分は、欠けている自分なりに生きてきた。それでいいのではないか、と思うようになった。
私は、何者にもなれなかった。
ということは、
私は、何にも囚われていないということだ。
人は、すべてを手に入れることはできない。
年をとればとるほど、
取捨選択の厳しさを感じることにはなる。
後ろをふりむけば、たくさんの可能性、選択肢を捨ててきたことになる。
前を見たら、少ない可能性と選択肢。
それを楽ととるか、苦ととるか。
私には、まだわからないでいる。
まだ、それを判断できるほどの経験値を得ていないのかもしれない。
たくさんのストーリーが、このアーケードを通り過ぎていく。
透明な私をすり抜けて。
そんな夢想に溶ける、小さな午後。
inspired by スピッツ 「冷たい頬」