夜遅く、駅から家へ向かう道を歩いていた。暗くて静かな住宅街の中、一人歩いていると不意に背後から視線を感じた。振り返ると誰もいない。気のせいかと思い、そのまま歩き続けた。

突然、肩を軽く叩かれた。驚いて振り返ると、そこには小さな女の子が立っていた。白いワンピースを着て、手には古びた人形を抱えている。彼女は無表情でじっと私を見つめていた。「どうしたの?」と尋ねると、女の子はかすかに口を開けて、「お家に帰りたい」と囁いた。

家の方向を指し示してやろうとするが、指が震えてうまく指せない。「お家はどこ?」と尋ねると、女の子は黙って人形を私に差し出した。「この人形が知ってる」と言うのだ。受け取ろうとした瞬間、女の子の顔が急に真っ黒になり、目だけが異様に輝いていた。

驚いて人形を放り投げ、急いでその場から逃げ出した。振り返ることなく全力で走り続け、自宅にたどり着いた。玄関に入ると、心臓が激しく鼓動し、息が切れていた。ふと振り返ると、玄関の外には誰もいなかった。安堵して部屋に戻り、ベッドに横たわった。

その夜、奇妙な夢を見た。夢の中で、あの女の子が再び現れ、「私のお家はここじゃない」と泣きながら訴えてきた。そして、人形が足元に転がっていた。目が覚めると、汗びっしょりで体が冷たくなっていた。

次の日、駅から家へ向かう道でふと立ち止まり、あの女の子がいた場所を見つめた。その時、目の前の電柱に貼られた失踪者のチラシが目に入った。そこには、あの女の子の写真が載っていた。彼女は数年前に行方不明になったと書かれていた。

背筋が凍る思いで、その場から離れた。あの夜の出来事は夢だったのか現実だったのか、今もわからない。ただ一つだけ確かだったのは、あの女の子はまだ家に帰れずにさまよっているのだろう。再び彼女に出会うことがないよう、心から願った。

 

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