新卒で某旅行会社に入った年の暮れ。
社員割引ツアーで旧ソ連へ新潟から船で渡った時のこと。
後から聞いた話では、その船の船長が40年やってきて、過去一、海が大荒れしたとか。
船は揺れに揺れ、2段ベッドの船室のドアは、バッタンバッタンと不気味な音を立て、重い大きなスーツケースが、大波のせいで船室の床をズズズ…と右へ左へずり動く。
私たち乗客はなすすべもなく、ベッドに横たわり柵にしがみつき、添乗員さんは立つこともできず、床に伏して這いながら客室を見て回るしかない。
生まれて初めて、
もうダメかもしれない。
生きて家族には会えないかもしれない。
と覚悟した。
そんな状況の中、私は思わずこう叫んでいた。
「お母さ〜ん! お母さ〜ん!」
人間、極限まで追い込まれると、
「お母さ〜ん」と本能的に叫ぶのだと、
その時、知った。