それは映画かドラマ、小説かマンガの中だけの話だと思っていた。
身近にそういう人がいなかったから、と云うわけでない。
もうだいぶ前の話だけれど、
歳の離れた従姉妹の旦那さんがある日急死した。
幼いころから大好きで、
本当の姉のように慕っていた人の旦那さんだったから死因を聞いて少なからずショックを受けたことを覚えている。
人には云えない苦しみや、
二進も三進もいかない事情を抱えていたのだろうと今では安易に想像出来るけれど、
あの頃の僕は、
人生を自らの手で終わらせなければならい理由に現実的に思い至るほど人生経験は豊富ではなかった。
時が流れ、
僕も良くも悪くも大人になり、
守るべきものが増え、
体裁を保つことにばかりに躍起になったり、
逆に諦めてしまったり投げやりになったりすることで、
時には悲観したり、
時には(じゃないな)常に後悔ばかりするようになり、
今はこうして出口の見えないトンネルの中にいて必死に足掻いている。
いや、足掻けるならまだましだ。
全ての限界がすぐそこに来ている現実を突きつけられて僕は怯えている。
今なら解る。
彼がどうしてその選択をしたのか。
彼にはきっとその勇気があったのだ。
その勇気さえ、度胸さえない僕は一体どうするだろう…